帰船 [09.11.19.]
野望を掴むために船を降りたヤツの消息は依然として知れない。
半年ほど前に、七武会から鷹の目の名が消えたが、大剣豪が敗れたという噂はない。
あるのは、小さな島が一つ消えたというものだけ。その島の名前は、ヤツが向かった島の名前と酷似しているが、同じ島かは確かめようがない。
野望は叶えた筈だ。それは確信に近い。
だが、無傷なわけがない。致命傷を負ったという方があり得る話だ。
どれほどの怪我を負っていてもいい。体の一部や二部や三部、失っていたって構わない。植物状態だったとしても、どうせ元々寝てばっかりだから、大して変わり映えしないだろう。
どんな姿でもいい。ただその心臓さえ動いていれば、暑苦しいくらいの温かさがあれば、ただそれだけでいいから……
「……っていう、俺の繊細な心を痛めまくった切ねえ想いをどうしてくれる」
「ぐおっ!!……あ?」
「あ、じゃねえよ!!テメェ、こんな所で何してやがる」
「寝てた」
「んなこたあ分かってんだよ!!テメェみてえな馬鹿と一緒にするんじゃねぇ!!」
「馬鹿って言うなって、何度言ったら分かるんだ!!テメェの方がよっぽど馬鹿じゃねえか、グルマユが!!」
「生きてんなら、生きてると知らせやがれ!!どれだけ待ってると思ってるんだ!!馬鹿マリモ!!バーカ、バーカ!!」
「うるせぇ!!だから真っ直ぐ戻ってきただろうが!!」
「真っ直ぐ向かって、何でこんなにかかるんだ!!いい加減、天才的迷子なことを自覚ろって言うんだ!!いつもテメェは動くなって言ってんだろが!!」
「買い出ししてるわけじゃねえだろうが!!動かないで待ってりゃ、テメェが来るとでも言うのか……あ?待ってた?」
「!!ま、待ってねえ!!」
「テメエが言ったんだろうが。アヒル頭じゃ覚えてられねえか」
「何だと!3歩歩いたら道が分からなくなるテメエと一緒にするんじゃねー!!ああ、そもそも毬藻にゃ脳みそないか。悪いな、人様扱いしちまって」
「なーに自分は人間みたいな言い方してやがる、ダーツ眉毛のアヒルコックが」
「……何あれ」
「あら、剣士さんがようやくお帰りね」
「別に涙の再会とか考えていたわけじゃないけど、最初に夢を叶えたのよ。それもとてつもない野望よ。感慨深いものがあってもいいじゃない。それなのに、なんなのよ、あれは!生死不明で音信不通で、やっと帰ってきたっていうのに、いつもの買い出しの時と変わらないじゃない!」
「ふふふ、それがいいんじゃない。また『日常』が戻ってくるなんて、こんなに幸せなことってないわ」
「そうだけど……。全くどうしようもないバカップルだわ」
「あら、一応まだでしょ?」
「まあね。さっさとくっついちゃってほしいわ。じれったいを通り越してイライラするんだもん」
「可愛いじゃない。初々しくて。それより、みんなに知らせないといけないわね」
「そうね!言ってくるわ!」
「今日は宴になりそうね」
「ルフィ!!みんな!!ゾロが帰ってきたわ!!」
end.