続・いつものこと。(1) [10.02.04.]
とても爽やかな晴天のある日。
フランキーは、ウソップと二人で甲板で頭脳パズルを作っていた。
ふと、音が聞こえた。
方向からして、ゾロだなとあたりをつけ、そっちへ目を向けた。
確かにゾロだ。
だが。
「なあ。何で毛布にくるまってるんだ?」
「ん?」
ウソップは顔を上げ、二人して動く毛布を目で追った。
それは、多少ふらつきながらラウンジに入っていった。
「たどり着いたなら、放っておいて大丈夫だ。」
「何だ?」
フランキーの疑問の声は、大声に消されてしまった。
「チョッパー!」
サンジがラウンジから顔を出し、叫んだ。
「……何だか覚えのある光景だな」
「ゾロがまた何かもらったんだろ。まあよくあることだな」
「剣士のにーちゃん、丈夫なんだか虚弱なんだか、分かんねーな」
「ゾロが虚弱……怖ーな。まあ1回かかっちまえば後は問題ないらしいぜ。ゾロが発症したくらいのウイルス量じゃ、俺達は発症しないしな」
「赤ん坊みたいだな」
「ゾロが赤ん坊……。まあ、『寝てりゃ治る』ってアイツは言うが、こればっかりは本当にそうだから、そういう意味では、俺らは何にも迷惑はかからねえよ。1名を除いてな」
「しかし、何でラウンジなんだ? 部屋か医務室で寝てりゃいいんじゃねえか?」
「サンジがラウンジにいるからな」
「?」
「まあそのうち嫌でも分かるさ」
「そういえば、コーラを貰いに行くって言ってあったんだった。ついでに様子見てくるか」
そう言って、フランキーはラウンジへ向かった。
中にはちょうど診察を終えたチョッパーがいた。
「どうなんだ?」
「大したことないよ」
「でも、採血してるじゃねえか」
「ああ、研究用にサンプルを貰っただけだ。みんなは発症しないよ。サンジ、食事も問題ないからね」
そう告げると、ホクホク顔で出て行った。
「随分とご機嫌だな」
「研究好きだからな、ドクターは。毬藻が寝込むと喜々とするぜ」
そのゾロはというと、ソファの上で毛布にくるまり、横たわっている。僅かに緑が覗いている。
「で? 何か用事があったんじゃねえのか?」
「お、おう、コーラを貰いにな」
「そうだった。いっぱい仕入れてきたぜ」
「ありがてえ」
コーラを受け取り、ゾロの方を見た。相変わらず緑が少し覗いているだけだ。
部屋で寝た方が静かじゃねえかと声をかけようとした時、ゾロが毛布から顔を出した。正確には目だけ出し、睨み付けている。只でさえ悪い目つきが、2割増くらいになっている。
視線を追うと、部屋を出ようとするサンジがいた。
射るような視線に振り向いた。
「ジャガイモを取りに行ってくる。直ぐ戻る」
自分に言われた訳ではないのは、視線が自分に向いていないことで分かるが、かと言って、あれだけの視線を向けられて、いつものマシンガントークが炸裂しない。
もの凄く、もの凄く驚いた。
サンジが出て行き、ゾロの方を見ると、やはり不機嫌そうな目だ。まあ、具合が悪いんだから仕方ないと思いつつ、声を掛けた。
「よう、大丈夫か? 医務室とかで寝てた方がいいんじゃねえのか?」
「……ここでいい」
「でもよー」
「フランキー、ウソップが悩んでたぜ」
言葉通り直ぐに、両手にジャガイモを山のように抱えたサンジが戻ってきた。そして、ゾロはその姿を確認すると、また目深に毛布を被り、蓑虫と化した。
何なんだと思いつつ、フランキーはラウンジを出ていった。
昼食の時間になり、みんながいつものように席に着く。ゾロは相変わらず蓑虫のままだが、誰も気に留める様子すらない。
「おーい、ゾロ。お前の分、食っていいか?」
寝込んでいると分かっていないのかと思うほど、いつも通りの船長の声。
「食う」
蓑から顔を出し、なんとか体を起こす。それを見て、サンジはゾロの分だけトレイに乗せ、ゾロの元へ運んだ。
「ほらよ。持てるか?」
「ん」 ……何だろう、この違和感。
食事が終わり、各々が散っていっても、フランキーは何故か腑に落ちない面持ちで、テーブルで食後のコーラを飲んでいた。
片づけが終わったサンジが、ラウンジを出ていこうとしたとき、またもゾロが毛布から覗いた。
「トイレだ、トイレ」
苦笑しながらも、怒ることなくそう告げて、ラウンジから出ていった。
そして、程なくしてサンジが戻ってくると、ゾロはまた蓑虫になった。
……何なんだ?
→(2)