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朧月夜(1) [10.01.06.]


 日付が替わろうとする頃だった。
 船番のサンジがレシピノートを広げていると、聞き慣れた気配がドアを開けた。
 ノートから目を離すこともなく、語りかけた。

「どうした、また迷子で戻ってきちまったのか?」
「いや」
「まあいい。食事は?」
「茶を入れてくれ。緑茶、あるだろう?」
「あるけど、珍しいな」
「飲ませてやりたくてな」
「え?」

 顔を上げると、剣士は1人ではなかった。
 全く気配を感じられなかったことにまず驚愕し、フードを外して現れた姿に目を見張った。
 ゾロが連れてきたのは、女だった。見事な銀髪で、眉も睫毛すらも白かった。肌は透けるようで、唇さえうっすらと色づいているだけの白さ。瞳も僅かに色が乗っているくらいの、真っ白な美女。
 昼間の話が、頭を過ぎった。


* * * * *



「鬼の子供?」

 サンジはナミとロビンにミントティーを差し出しながら聞いた。

「そう。この島、10年くらい前まではそれは酷かったって。私欲に満ちた海軍からも海賊からも、略奪とか絶えなかったそうなの。でも、そんな奴らを一掃してくれたのが『白い鬼』。 その鬼が助けた孤児達が中心になって作られた子供の集団が『鬼の子供達』って呼ばれているの。身寄りのない子供達だけの集まりなんだけど、剣術の腕は確か、礼儀正しい、よく働く。だからどこの店でも雇ってるってわけ」
「へえ。それは確かに重宝がられそうだな。それにしても、恩人を『鬼』呼ばわりかい?どっかの毬藻みたいな奴だったのかな?」
「そういえば『イーストの魔獣』だったっけ?」
「その実態は、寝腐れ腹巻きでしたね」
「万年寝太郎、穀潰し」

 ナミとサンジは、言いたい放題で笑いあった。

「鬼というのは『外部から来た者』という意味で使われているのよ」

 微笑みながら2人のやり取りを聞いていたロビンが言った。

「島の人間ではないのですって。でも、それだけではなくて、その闘う姿から付いたという理由もあるの」

 ナミとロビンは目を合わせた後、意味深な視線をサンジに送った。

「どんな闘い方だったんだい? 子供達が剣を差しているってことは、『鬼』は剣士かな?」
「剣士かどうか。何も持っていなかったらしいから。何も持っていないのに『剣を振るった』そうよ」

 煙草を挟む指が、一瞬動いた。

「もっともその闘いの生き証人は、今はもう1人だけで、当時5才。おまけに『鬼』本人の所在も不明。だから島の人々は半信半疑なの。半ば伝説化していたわ」
「でも、私達は知っているわよね。『何も持たずに剣を振るう』ということが、どんなものか」

 ナミは挑発するかのようにさえみえる笑みを浮かべて、サンジに言った。

「気にならない?」
「俺が? 剣士に興味はありませんよ」
「女でも?」
「は?」
「『鬼』は女性だそうよ」
「レディ?」
「しかも、真っ白の美女」
「真っ白の美女だなんて、なんてロマンティックなんだ! 『鬼』だなんて失礼極まりないな。スノーホワイトとお呼びするべきだろうに」
「……サンジ君、そこじゃなくてね。見えない剣を振るう美女、よ。どう思う?」
「ぜひお目に掛かりたいです♪」
「無刀流なんて、そうそう使えるものではないと思うの。剣士さんと何の関係もないものかしら?」
「さあ。俺にとってはレディを鬼呼ばわりしていることの方が重大問題ですよ」
 
 見当違いの方向に憤慨するサンジの様子に、ナミはちょっとつまらなそうな顔をしたが、お茶を堪能した後、サンジを残して島の宿へと戻っていった。


* * * * *



「おい、コック?」
「あ、ああ、悪い。なんてお美しいレディをお連れしたんだ。でかした、毬藻。さあ、レディ、こちらへどうぞ。玉露をご用意できなくて申し訳ないが、精一杯ご馳走させていただきましょう♪」

 そう言った声は、震えていなかったはずだ。震えていたとしても、それはレディの美しさに心が震えているからだ。
 そう言い聞かせるようにしながら、お湯を沸かし始めた。
 カウンターの席に女を座らせたゾロは、自分もその隣に座った。

「昨日食べた漬け物はまだあるだろう? それも出してやってくれ」
「あ?」
 
 俺は食堂の親父じゃねえと、文句の一つでも言ってやろうとしたとき。

「美味いぞ。どうせなら、それも食わせてやりてえ」

 女に向かって発せられたそのセリフに、サンジは茶筒を落しそうになった。

 どんな顔をしていいものか分からなくて、サンジはゾロの顔を全く見ずに、女に緑茶と漬け物、それから即席で作った生菓子を差し出した。
 女は少しハスキーな声で礼を言い、ゆっくりとお茶を飲んだ。
 飲み終わるまで何も言わなかったが、その表情はとても幸せそうで、それを見るゾロの目もとても優しかった。その視線を見た時、サンジまでもが幸せな気持ちになった。
 誰も入ることのできない様な雰囲気であるのに、さっきまでの灰色な気持ちは何故か全く感じない。
 それを不思議に思いつつも、この時間が少しでも長く続けばいいと思ったほどだった。



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