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うつせみの……(2)[10.12.07.]


 キッチンで飲みながら寝ちまった俺を運んでくれたのは、ゾロだった。
 何で寝たままだったんだろうと思う。寝たままでよかったとも思う。
 あの腕に抱き上げられたのか。まあ、担がれたのかもしれねえけど。どちらにしても、ゾロに触れられたのは事実で。
 やっぱりもったいないことしたかなあ。
 あの日以来消し去ろうという気持ちを持たなくなったから、ゾロへの想いは強くなる一方だ。
 だから、今日は本当に楽しかった。俺にとってはデートだった。

 そんな事を考えていたら、ウソップが側に来た。

「楽しかったな〜。たまにこんな男同士ってのもいいな」
「そうだな」
「お前ら、喧嘩しないで一日中一緒にいられたんだって?」
「一日中って程じゃねえけどな」
「楽しかったか?」
「まあな」

 すっげえ楽しかったぜ。

「じゃあ、俺はもう宿に行くから、サンジ、お前もうちょっとゾロに付き合ってやってくれよ」
「あ?」
「あいつ、まだ飲み足りねえだろ。俺はそろそろ撤退しねえと宿までたどり着けねえ自信がある」
「そんなの、俺が連れていってやるぜ」

 あ〜……と、ちょっと視線を反らした。そして、口元に手を当て、小声で話し始めた。

「ゾロ、今日お前と過ごしたのがすっげえ楽しかったみてえなんだ。お前らがこんなふうに過ごすチャンス、そうないだろ? すぐ喧嘩するしよ。だから、俺としてはその貴重な時間をあいつにやりてえなあと思ったんだよ。誕生日プレゼントに」

 楽しかった? ゾロも?

「そんなもの、毬藻が喜ぶか?」
「おう。但し! つまんねえことで喧嘩はなしだぞ」
「う……」
「無理か?」
「いや、まあ……俺も楽しかったっちゃあ楽しかったし」

 素直じゃねえよな、いい加減、俺も。

「じゃあ頼んだ。片付け終わったら、一緒に一杯付き合ってやってくれ」

 俺はそろそろ宿に行くからな〜とゾロに声をかけるウソップに、ゾロは不満そうな顔をした。
 考えてみれば、2人で晩酌ってのは珍しいことじゃねえ。ウソップも知っている筈だ。鼻め、酔ってるな?
 見れば、ウソップがゾロに何かを耳打ちしている。
 何だ?
 ゾロは軽く酒にむせた。ちっと赤いのはそのせいだけじゃねえよな。
 ウソップに文句を言う顔は、照れ隠しのような不機嫌な表情。
 ウソップはニカッと笑ってゾロの背中を叩き、じゃあなとキッチンを出て行った。
 ……何なんだよ。
 あんな顔、初めて見たじゃねえか。
 つい胸に浮かぶ黒い靄。本当バカだよな。

「おい」

 いきなり声を掛けられ、びっくりして顔を上げると、目の前にゾロがいた。
 驚き過ぎて、息を飲んじまった。 近えよ。
 オマケに、ゾロも驚いたようで、目を見開いて固まっていた。ちょっと幼くみえるな。

「……片付け、終わったか?」
「あ、うん」

 うんって何だ!一気に我に返った。

「びっくりしたじゃねえか」
「ぼーっとしてやがったよな」
「うるせえな。片付けに集中してたんだよ」

 あ、しまった。ついいつもの調子で返しちまった。

「他に何するんだ。どこもピカピカじゃねえか」

 う……確かにな。

「今日サービスで貰った酒、飲もうって言ってただろ?」
「あ、忘れてた」
「ウソップもいて、楽しかったしな。何だかガキの頃を思い出した」
「へえ。ガキな毬藻ね」
「てめえは……、ったく。まあいい。酒持って、こっちへ来い」

 そう言いながら、ゾロはグラスを2つ持って席に戻っていった。
 素直になれねえ自分に嫌気が差す。
 酒を持ってテーブルに向かった。

 取り合えず座って酒を注ぐ。すっきりした辛口の白ワインは、ゾロの好みに近く、案の定一口でご機嫌な表情をした。

「いい貰いもんだったな」
「ああ。何かつまみがいるな」

 そう言って立ち上がると、不意に腕を掴まれた。

「いらねえから、てめえも飲め」
「……飲むさ。でも、俺は何か摘まみながらじゃねえと、てめえと一緒に飲んでたら直ぐ回っちまうだろうが、ザル毬藻」

 渋々手を離され、俺は何でもない風体で冷蔵庫へ向かった。
 掴まれた腕が熱い。たったこれだけで、何でこんなにドキドキしてんだ。やっぱり今日は変な日だ。喧嘩しねえどころか、すげえ仲のいいダチみてえな日。
 でも、嬉しい反面、自嘲したくもなる。
 ダチ、ね。
 そもそもゾロは何も考えちゃいねえだろうに、自分の勝手な憶測にさえ自嘲するって、本当に救いようがねえなあ。
 ゾロは食わねえみたいだから、冷蔵庫に入れている数種類のディップとクラッカーを持って席に戻った。



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