(目が覚めて一番に)


小鳥の囀りで朝起きるだなんて童話や漫画の中だけで、実際は携帯のアラームや誰かに起こされるなんて事が主である。

現になまえは今、後者で起こされている。

「なまえ?なまえ!朝っスよ!起きて下さいっス!」

「う…ん……アッシュ…?」

ゆっくりと重たい瞼を開くと緑の前髪が揺れているのがぼんやりと見えた。
自分を起こしているのがアッシュだと気付くと頭が少し冴える、小鳥の囀りで目覚める白雪姫を羨みながら、上半身を起こした、なまえは寝ぼけた頭で目の前にいるアッシュに「おはよう」と告げた。
アッシュはそれを確認すると満足そうにニコリと微笑み「おはようございます」と挨拶を返した。

「あ、朝ごはん準備出来てるっスから、用意できたら来て下さいっス」

「あ、ありがとう!すぐ準備するね」

まだ布団から出ていないなまえは上半身を使って軽く頭を下げた。
アッシュは軽く微笑むと部屋を出ていった。

なまえは軽く伸びをすると小さく欠伸をして、布団から出た。
服を素早く着替えると洗面台へと歩きだす。

顔を洗うとすぐにキッチンへと向かった。


「あ、なまえ!準備できたっスか?」

「うん、今日の朝ごはんは何かなー」

「トーストとポテトサラダとヨーグルトっスよ」

「わ!好きなのばっかり!流石アッシュ」


ニコニコと微笑みながら椅子に腰掛けると、アッシュは「どうぞ」と、目の前にご飯を並べてくれた。
「いただきます!」と言うや否やなまえはパクリと、大きな口でトーストを一口頬張った。
アッシュはそんななまえの目の前の席に座ると片肘をつけて、微笑みながらその様子を見ていた。

なまえはぺろりとトーストを一枚食べ切るとフォークを片手に取り、ポテトサラダを頬張り始めた。
「おいしい!」と絶賛の声をあげると、アッシュは照れ臭そうに頭の後ろを掻いた。


「…なまえは本当に美味しそうに食べるっスよね」

「ん?だって本当に美味しいから」

「ちょっと、照れるっス…」


下を俯いたアッシュの顔は前髪で見えなかったが、髪から大きく飛び出た耳が赤くなっているのが分かる。
なまえはクスリと微笑むとまたフォークを口に運んだ。


「毎朝うちに来るの大変でしょうに…本当にいつもありがとうございます」

「いえいえ!とんでもないっス!」

「感謝してもしきれないよ」


深々となまえが頭を下げる。
アッシュは自嘲気味に微笑むと「好きでやってる事っスから」と、また頭を掻いた。
アッシュは毎朝仕事が始まる前の時間、こうして毎朝なまえの家に朝ごはんを作りに来ている。
勿論、来れない日もあるが来れない日には前日に作り置きをしておき、冷蔵庫のタッパーに用意しておいてくれるという準備っぷりだ。

アッシュが毎朝こうしてなまえの家の来るのにも理由がある。
以前何気なく、アッシュと会話をしていたなまえがうっかり「最近は寝坊が凄くて朝食を抜く事が多い」と零してしまったからである。
それを聞いたアッシュは「身体に悪い」と、自ら毎朝ここに朝食を作りに来る事を申し出たのだ。


「しっかし、アッシュはモテそうだよね」

「えっ!?」

「いや、バンドやってるし料理もできて、気が利いて、何より優しいじゃない?わざわざ朝食作りに来てくれるなんてさ」


なまえは二枚目のトーストをかじりながら指を折った。
指を折る度にアッシュを褒める言葉が飛び出して、その度にアッシュの顔が赤くなる。


「そんな事無いっスよ」

「え?私はそう思うんだけど…」

「…なまえが言うみたいな、できた男じゃないっス…」


どんどんと下を向いていくアッシュは照れた顔でもなく、何とも言い難い顔をしていた。
なまえはマズイ事でも言ったかな。と自分の軽率な発言を悔やんだが、もう言ってしまったからには戻れない、と謝ろうとした時。なまえより先にアッシュの口が動いた。


「好きな子の前で、見栄張ってカッコつけるような余裕の無い奴っスよ」


アッシュは下を向いていた頭をなまえに向けると、へらりと微笑んだ。


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