「(好きな子、いるんだ)」

今までアッシュとは仲良くしてきたが、そういう話を全くしなかった為、アッシュに好きな人が居るのを初めて知ったなまえは、何故だか深くショックを受けた。
それは今まで聞いた事が無かったからか、兄弟の様に感じていたアッシュの恋愛話にショックを受けたのか。
なまえはよく分かって居なかった。
それどころか、そんな事を考える余裕すら無くなっていた。


「あ、あと!勘違いしないで欲しいっスよ!」

「え!?何を…?」

「俺は、誰にでも平等に優しいわけじゃないっス!こうして毎朝来るのだって…なまえだから……っス」

「え?あ、ありがとう…?」


すっかり食べる事を忘れたなまえは目の前に座っているアッシュから目が離せなかった。
今のは何だろうか、アッシュは今、私だからと言ったけどそれはどういう意味なんだろうか。
自分が感じていた"家族愛"に近いものを指しているのか
というかアッシュの好きな子って誰だろうか。私は知ってる人なんだろうか。

ぐるぐると回る思考をよそに二人の間に沈黙が走る。

何と切り出していいか分からずになまえはとりあえず、手に持ったままの食べかけのトーストを口に運んだ。
トーストは相変わらず美味しくて、流石はアッシュだなぁ。と思ってしまう。

ぐるぐる回る思考が大分落ち着いてきた頃
沈黙に耐え兼ねたなまえが先に口を開いた。


「…アッシュさ、今さ言ったよね?」

「え?」

「私だから、毎朝来てるって」

「えぇっ…あ、はい、言ったっス…」


アッシュの顔がほんのり赤い気がする。
勢いで言った台詞を持ち出されて恥ずかしいのかな、となまえは思いながらも、ここまで言ったのだから戻れない。と、話を続けた。


「あれ、嬉しかったよ。」

「……」

「少なからずアッシュの特別枠に入ってるみたいだし?まあ、アッシュの好きな子?には敵わないんだろうけど…」「いやっ!俺は!」

なまえの話を遮るようにアッシュが会話に入ってきた。
なまえは目をぱちくりさせて、アッシュを見つめた。
いつものアッシュならこんな大声で人の話を遮るような事をしない事を、なまえはよく知っていたからである。
また何か失言でもしたかと自分を責め、「ごめんアッシュ」と、言おうと口を開こうとした瞬間。なまえが言うより先に「ごめんなさい」と謝罪の言葉がこの場に発された。


「ごめんなさいっス…俺、もう仕事だから行かないと」


アッシュはそそくさと立ち上がると、なまえと目を合わせないようにして、上着を取り、靴を履いた。


「また明日」


と、言い残すとなまえの返事も聞かずドアを開け、出ていってしまった。


「……何、今の」


取り残されたなまえは、呆然としたまま、まるで嵐のように立ち去ったアッシュが出ていった玄関のドアを見つめていた。
しかしアッシュは「また明日」と言ったのだからきっと明日もいつものように来るだろう。と、残ったご飯を食べ始めた。
これはきっとアッシュが嘘をつかない奴だと信頼しているからだな、となまえは微笑んだ。
きっと声を荒げたのだって何か理由があるに違いない
なまえは明日アッシュに会ったら、絶対に謝ろうと心に誓った。

相変わらずアッシュの作ったポテトサラダは美味しい。



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