「なまえ、大丈夫っスか…?」

「え?何が?」

「…いや、元気無いっていうか…その…」

「大丈夫だよ」

なまえがへらりと微笑むと、アッシュはまだ少し心配そうだったが納得した、という表情を見せた。


「……寂しく無かったっスか?」


ドクンと胸が鳴った。
寂しかった。といえばアッシュはきっと抱きしめてくれるだろう。
でもそれを言えばアッシュは仕事の疲れた合間に無理をして会いに来てくれるかもしれない。
なまえはアッシュの負担になりたくない。
と、嘘をつく罪悪感を押し殺して、微笑んだ。


「大丈夫だよ」


刹那、アッシュは酷く淋しげな顔をした。
なまえは何かマズイ事でも言ったかと自分を責めた。
何故アッシュはこんな顔をしているのかと、何度考えても分からない。
とりあえずアッシュを傷つけたのなら謝らなくては、となまえは口を開いた。


「アッシュ…?ご、ごめんね?」

「何が…っスか?」

「え、いや…何か…」


気まずい空間が二人の間を流れる。
なまえは立ったまま、アッシュは何処か余所を眺めたまま数分が経ち、先にその沈黙を破ったのはアッシュだった。


「なまえは、」

「え?」

「なまえは、俺に…会えなくても…平気、なんスね」

「あ…!」


その言葉を聞いてなまえははっとした。
寂しかったか?て聞かれて大丈夫だ。と答える、つまりそれはアッシュが居なくても大丈夫。という事である事になまえは気付かなかった。
なまえはどうしたらいいのか分からず出かけた言葉を数回飲み込んだ。
何度も頭の中で台詞をシュミレーションしてから、なまえはついに動いた。


「…アッシュ…っ!」

「なまえ?」

「嘘、です。本当は、本当は」


なまえは座っているアッシュの横に膝をつくとアッシュのコートの裾をぎゅっと握った。
顔を真っ赤に染めて俯き、消えてしまいそうな小さな声でぽつりと呟いた。


「夜も眠れないくらい、淋しかった…です…」


緊張からか羞恥からか何故か敬語になりながら、なまえは瞳にうっすら涙を浮かべた。

アッシュは一瞬、いや、長い時間驚いたような顔をして、ぎゅっと口を真一文字に結んだ。
数秒、アッシュは歯を食いしばるとゆっくりとその手をなまえをぎゅっと抱き締めると、愛しそうになまえの名前を呼んだ。

「なまえ、俺、」

「…」

「俺…淋しがってほしいとか、…そんな、我が儘………なまえ?」


なまえからの反応が無いのを不審に思ったのかアッシュはなまえの肩を掴んだ。

かくん、と首を落とすなまえの瞳は閉じられていた。
アッシュは拍子抜けした間抜けな顔でなまえを見つめた。

「なまえ…!?」

「ふぁっ!?…あ、アッシュ…!!ごめん、眠たくて…」

アッシュに抱きしめられるとなまえは何故か眠気に襲われた。
きっと彼の暖かさと匂いに安心しているからだろう。
今までの二週間近く、何をしても寝付けなかったというのに何て単純な身体だ、となまえは自分自身に呆れた。


「…アッシュ今日はいつまでお休み?」

「え…今日一日は休みっスけど…」

「そっか、じゃあさ」


なまえはアッシュの手を引き、立ち上がった。
アッシュは驚きを隠せずに口をぽかん、と開いたままされるがままに立ち上がる。

なまえは止まる事なく自分の寝室へと向かい、ドアを開くとベッドに頭から倒れるように横になった。


「なまえ…?」

「ゆっくり寝ようよ…疲れたでしょ」


今にもくっついて離れなくなりそうな瞼でなまえへにゃりと顔を歪めた。
「なまえ…」

「私、人と寝るの苦手だけど、アッシュなら、平気…むしろ…一緒のが……」


そこまで言うとなまえは力尽きたのか動かなくなってしまった。
暫くすると規則正しい寝息が聞こえてきた。

アッシュは呆気にとられながら口を開けたままだったが、きゅっと口を結ぶと、自分の腕を握ったまま離さないなまえを抱きしめるように横になると、なまえの閉じた瞼にひとつキスを落とした。


「おやすみ、なまえ…」


皆が学校や会社に急ぐ慌ただしい朝。
この部屋にはそれらからは遠く掛け離れた、二つの寝息が聞こえてきた。


久しい安眠
(寝息すら愛しい)


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