翌朝、なまえは携帯のアラームがなる前に目覚め、疲れた身体を動かし、顔を洗いに行く。
水をぱしゃりと顔にかけて、目の前の鏡を見ると、隈で目元が強調された酷い顔の女が立っていた。
「酷い顔だ」と、呟くとそれを隠すようにファンデーションを顔に塗り付けた。
お腹は空いていなかったがご飯を食べよう。と、キッチンに向かおうとした時、枕元に投げてきた携帯が鳴っているのに気が付いた。
アラームは止めたんだけどな。と携帯の元に走ると、それはアラームでは無かった。
携帯のディスプレイには待ち望んだあの人の名前
"アッシュ"と表示されたディスプレイ
胸が鳴るのが分かった。
どくどくと、心臓が早くなるのを感じる。
身体が熱くなる、なまえはすっかり疲れを忘れていた。
それはアッシュからのメールだった。
ごくりと唾を飲み込むと、震える手で携帯のボタンを押した。
メールを開くとなまえは、目を見開き慌てて二三度周りを見渡し。
ぐっと唇を結ぶとなまえは玄関へと走り出した。
ドアノブを握ると、一つ深呼吸をして、ぐっとドアを開いた。
ドアを開くとなまえより随分大柄で緑の髪の男が、アッシュが立っていた。
少し照れたように頬を赤くして、はにかんだ笑顔で「久しぶりっス」と笑った。
なまえは目を見開いたまま、ただただアッシュを呆然と見つめていた。
それに気付いたアッシュは戸惑ったようになまえの名前を呼んだ。
「なまえ…?」
「あっ、ひさ、久しぶり!」
焦った口調でなまえは何とか返事を返した。
握ったドアノブに汗がじんわりと広がっている。
アッシュは不安そうに口を開いた。
「あ、すみませんっス…急に来てしまって…時間ができたから会いたくなって…」
「え!?いや、全然悪くない!悪くないよ!むしろ…嬉しい…し、」
なまえはこの後にある仕事を思い出したが
すぐにそれは頭から消え去った。と、いうより消え去りを得なかった。
目の前に立っているがなまえを抱きしめたからだ。
「わ…!!」
「…嬉しいっス、なまえのその言葉が嬉しい…っス」
ぎゅっと抱きしめる力が強まる。
アッシュの愛が流れ込んでくるような気がして何だかむず痒くなる。
途端、忘れていた眠気が沸き上がる。
はて、どうしてここで眠くなるのか、考えつつも、なまえは今ここが玄関で、しかも玄関が開いてる事に気がついた。
「アッシュ…玄関開いてるから…」
「あ…!すっすみませんっス!!!」
なまえの言葉でアッシュは、ぱっと手を離した。
その顔は真っ赤でなまえはくすりと微笑んだ。
「どうぞ」と、なまえはアッシュを中に通すとトイレに行く、と言って、仕事先に連絡をした。
最近ぼぉっとしていたなまえを心配していたからか、すんなりと休みを取れた。
なまえは、ほっと胸を撫で下ろす。
土壇場で仕事を休むなんて、初めての事だし、何より罪悪感が沸き上がる。
もう二度としない。と心に誓うとなまえは、アッシュの元へと急いだ。
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