「どうして?」
本当は聞きたくなかったし、うっすらとその理由は分かっていた。
それでも聞いたのはそれがそういうお約束だから。
「俺結婚するんだ」
ああ、そうなんだ。
これがそれを聞いて1番初めに思った事だ。
「そっか…寂しくなるね」
「そうか?」
「うん、寂しくなるよ」
なまえはハッと自分の今の体勢を見直すと、その結婚相手の人に申し訳なくなって、でも何でか動けなかった。
「寂しくなるね」
無意識で、同じ事を何度も繰り返し呟く。
MZDは少し呆れた様に「変わらないって」となまえの頭を撫でた。
「だって、私が今結婚するって言ったらMZD嫌でしょ?」
「…まあ、嫌かもしんねーけど…とりあえずおめでとうって言うな」
そう言われて気がついた。
(私、おめでとうって言ってなかった)
それはそうだ。なまえはおめでたいなんて、思って居なかったのだから。
「お、おめでとう」
「ありがとう」
MZDの笑顔が眩しい。
いつだかに見たあの切なそうな笑顔を思い出して、結婚相手の人はMZDをこんな笑顔に出来るのに自分は…と、ここまで考えてなまえは考えるのを止めた。
「何でこんなに寂しいって思うんだろうね」
「分かんない?」
「いや」
分かっているけど、口にしたら気持ちがどんどん膨らみそうで
いやでも逆に言った方がスッキリするのかも、
と一瞬の間になまえは考え、MZDを見ないようにしながら
「好きだったのかもね」
「ありがとう」
ほらみろ、前者が正解だ。
「そろそろ帰らないとヤバイんじゃね?」
パッと時計を見ると短い針が10時を越えていた。
確かにもう帰らないと、ヤバイ。のかもしれない。
「そうだね、帰らないと」
「送る」
「すぐそこだし、いいよ」
「いいからいいから」
可愛く送られとけ、となまえを指差すMZD。
何だか今日の彼はいつもと違う気がした。
外に出ると、MZDが左手を差し出し、「ん」と言ってきた。
これはどう見ても手を繋げ、という意味だろう。
戸惑いながらも手を握ると、MZDがなまえの指に指を絡ませた。
所謂、恋人繋ぎだ。
「…これは浮気じゃないですか?」
「お前が決める事だ」
意味が分からず立ち止まるなまえの手を引き、「ほら行くぞ」とMZDは何時もの笑顔を見せた。
なまえの家の付近までくると、今度はMZDが立ち止まる番だった。
「MZD?」
「何かもうちょい話したい気分、かも」
「うん、じゃあ話そうよ」
正直な話、なまえはMZDに引き止められて悪い気はしなかった。
この時既になまえは気付いていたのだ。
自分の最低な気持ちに。
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