心臓に杭を打たれたみたいに胸が痛い。
冷や汗が止まらない。
「おーそいやデザートあるけど、食う?」
ニカッという効果音が似合う笑顔に少しだけなまえの胸は軽くなった。
蜜柑のジュレとティラミスとどっちがいい?と尋ねられたなまえは手前にあった蜜柑のジュレを手に取った。
可愛いスプーンで一口すくえばオレンジのゼリーが美味しそうに揺れた。
口に運べば酸味の効いた柑橘類独特の風味が口内に広がった。
「美味しい…」
「ん、俺にも一口くれよ」
「え?」
MZDの方に目をやれば口を開いて、まさにあーんを待っている状態だ。
自分のスプーンですくえ!!なんて言えるわけなく、カタカタと震える右手でMZDの口にジュレを運んだ。
「うん、美味いな」
「でしょ?」
「ほい、お返し」
そう言われてこっちに向いたスプーンにはティラミス。
MZDの右手にMZDが使ったスプーン。
緊張するのはMZDだからじゃあない、こんな事するのは初めてだからだと何度も心の中で繰り返した。
ここで断るのも失礼だし、何より恥ずかしがってると思われたくなかった。
MZDが差し出すティラミスをぱくりと一思いに頬張り、美味しい、と微笑んだ。
本当を言うとなまえはティラミスの味なんか分かっていなかった。
「…ぶっ!!お前…下手くそか」
今日1番の笑顔を見せるMZD。
なまえは自分が笑われてるのが不愉快で顔を赤らめ、キーキーと反論した。
「いやだって、笑顔引き攣りまくりだぞ」
自然に笑ったつもりだった笑顔は顔中あちこち引き攣っていて、笑顔とは言い難かったそうだ。
なまえは恥ずかしくて、今にも消えてしまいそうだった。
MZDがそんな様子を更に笑うとなまえはまたもキーキーと声を荒げた。
「おいで」と両手を広げるMZD。
ここで行かないとまた笑われると思ったなまえは意地でMZDの胸元に抱き着いた。
抱き着く、というよりそれはタックルに近かったため、MZDは勢いでそのまま後ろに倒れてしまった。
ドンっと鈍い音に二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「お前と二人でいると楽しいなぁ」
「…どうも」
「もうできなくなるんだな」
その一言でなまえの動きはショートした。
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