思わぬアッシュの登場になまえはかなり動揺していた。
そんななまえを知ってか知らずにかアッシュはなまえに小さく微笑んだ。

「(だって、そんな、スーツとか…!)」

そう、パーティーという場だからか、アッシュはキッチリとスーツを着込んでいた。
裸にコートの彼を初めて見た時は恥ずかしい!と思って動揺していたが、今ではしっかり閉められた第一ボタンとキツめのネクタイにかなり動揺している。
そんな彼に戸惑いながらも(カッコイイ)と思ったその時。

「カッコイイ。って今思った〜?」

意地悪な声が何処からか聞こえてきた。
相変わらずばっちりなタイミングに、なまえはやはりこの人は心が読めるんじゃないか。と思った。

「意地悪しないでよ、スマイル!」

「ヒッヒッヒッ…意地悪だなんて…してないよ…ねぇ?」

すうっと頭から姿を見せたスマイルもスーツを身に纏っていたが、シャツのボタンは第三ボタンまで開いていて、派手な蝶ネクタイが揺れていた。

そんなだらし無い格好になまえは小さくため息をついて、ちらりと余所を見た。

「?、あれ?ユーリは来てないの?」

てっきりこの二人がいるから、来ているものだと思っていたユーリの姿が見えなかったのだ。

「ユーリっスか?さっきまでここに居たんスけど…」

「おじいちゃんが迷子になっちゃったみたいだねぇ…」

「誰がおじいちゃん、だ」


張りのある凜とした声がなまえの後ろから聞こえた。
バッと振り向くとそこには探していた人、ユーリが立っていた。
ユーリもスーツなんだ、と思ったがユーリには違和感が無さ過ぎていつも着ている服とあまり変わらないなぁ、となまえは一瞬の間に思った。

「なまえ」
「はいっ」

何も悪い事はしていなかったが、ユーリの事を調度考えていたからかユーリに名前を呼ばれて裏返った声を出してしまった。

「誕生日おめでとう、コレは私からのプレゼントだ」

ユーリは何処から出したのか先程までは見えなかった赤い薔薇の花束をなまえに差し出した。

なまえは花束を受け取ると「ありがとう」と微笑んだ。
すると、スマイルが後ろから抱き着くようになまえにくっついた。
そして、ギャンブラーZのキーホルダーをなまえの手に握らせて「すっごいでしょ!僕とお揃いだよ!おめでとう」と言い終わるや否や、焦ったアッシュに肩を掴まれてなまえから引きはがされた。
アッシュはそのままスマイルに説教を始めてしまった。
なまえとユーリは顔を見合わせると、クスリと笑ってしまった。

楽しい。
そう思う反面。
さっきまで考えていた心残りがムクムクと膨らんでくる。
きっとアッシュが目の前に居るからだ。
アッシュと、二人で過ごしたい。だなんて、そんな。

「(そんな我が儘言えないよ)」

こんな大きくて素敵なパーティーを開いて貰っておきながら、そんな事。
言えるわけが無かった。

なまえはまだ説教を続けるアッシュを見ながら小さく、本当に小さくため息をついた。
それに気が付いたのは隣に居たユーリ。

なまえを数秒眺めると、つかつかと二人に近寄り、スマイルの耳を引っ張った。
スマイルは「いたっ!」と叫んだがユーリはそれを無視して、掴んだ耳を離さないままアッシュに耳打ちした。
アッシュの顔が一瞬で赤くなると、ユーリはニヤリと微笑み、スマイルを連れてどこかに行ってしまった。
最後までスマイルの悲痛の叫びが聞こえていた。

なまえは何が起こったか訳が分からず、ポカンとユーリとスマイルが行った後を見つめていると、アッシュが「なまえ?大丈夫っスか?」と声を掛けてきたので、やっと我に帰れた。

「あ、うん、大丈夫!……ていうかスーツ。…カッコイイ」

「えっ、あ、ありがとうっス!」

アッシュが頬を染めながら照れ臭そうに微笑む。
「着て来てよかったっス!」とはにかむ彼の仕種になまえは言い知れぬ動機に襲われる。
可愛い。と、素直に思ったが、男のアッシュには褒め言葉では無いだろう。と思い、何とか言葉を飲み込んだ。


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