棺桶の中で横たわるユーリは酷く美しかった。

長い睫毛が綺麗に生えそろいぱっちりと上に向いている。
閉じられた瞼には青いアイシャドウが綺麗に塗られて、白い肌は触ったら今にも摺り抜けそうだ。

遅れて後を追ってきたアッシュがなまえの肩に触れる。
瞬間、ビクッと大きく肩が震えて、小刻みに震え出した。

「死んでるの?」

「…眠っているだけっス」


恐ろしかった。
アッシュがうん、と言わないのは分かっていた。
でも、もしかしたら、と思うと恐怖で胃の中の物が飛び出してきそうだ。
背中はひんやりと汗ばんでいる。

ユーリが眠ってしまった理由は分からないとアッシュは言った。
いつ目覚めるかも、どうすれば目覚めるかも、何も分からない。

恐ろしい。
不安と悲しみと恐怖と負の感情ばかりが集まってできた何とも言い難いこの気持ち。
どこに吐き出せばばいいのかも分からず、ただただ涙を零した。

私が眠っているユーリが1番だと言ったからユーリは眠ってしまったのだろうか。

そんな事を思い付くと一気に自分のせいだ。
と思い込んでしまう。

何であんな事を言ったのだろう。軽率な自分が憎たらしい。
本心では無かったのに、どうして。

後悔してもしきれない。
なまえはついに床に崩れこんで、棺桶の下に奇麗に敷かれた赤いレースのテーブルクロスを握り閉めた。
おかげで皺一つ無かった奇麗なテーブルクロスはぐしゃぐしゃだ。

アッシュはただ黙って泣き崩れるなまえを見つめた。

ねぇユーリ起きてよ。
ちゃんと言わないといけない事があるの。
眠っている貴方より歌う貴方の方が大好きよ。
私の名前を呼ぶ貴方の方が大好きよ。
ねぇ起きてよ。

彼の皮肉が懐かしい。
ネチネチ繰り返す嫌みだって眉間の皺だって小さな口喧嘩だって全てが懐かしくて愛しい。


いつかくるおはようまで
「生きていたい」

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せめておやすみって言いたかった後悔と起きてほしいっていう我が儘

ユーリ小説にユーリが一言も喋らないっていう…ね…。

20120513

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テーマ「人外ファンタジー」
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