[あの頃の私達は、 J]

最初に現世に喚び出された時は教え子であるヒルゼンとの戦いの場だった。
記憶にある姿とは随分と違うその姿に自分の死後も火影として里を守り続けてくれたであろう事に安堵したと同時に、その敵として存在している自分達を酷く情けなくも思った。
自分と同様に穢土転生された兄者もまた生前と変わらぬ姿で蘇り、その時は不謹慎だが懐かしさを覚えた。

「…また穢土転生の術か。ワシの作った術をこう易々と…」

ヒルゼンの封印術により魂を封印された自分達だったが、再び大蛇丸の手により現世に喚び出される事となった。
しかも今回は自分達兄弟の他にヒルゼンと四代目火影までもが術の対象者となっていた。

以前の穢土転生体よりもチャクラを強く感じられる事から更に穢土転生の精度を向上させたという事が分かる。
大蛇丸の研究者としての能力は目を見張るものがあり、術の開発者である自身でさえここまでの精度を保ちながらの穢土転生は不可能だった。
それが良い事か悪い事かと言われればどちらとも言えないが、悪しき思想を持つ者がこの術を扱うという事は同時に大きな争いの火種が付いてまわる。
前回、自分達を使い里を襲った大蛇丸と共に行動している「うちは」を名乗る子供は幼いながらも既に万華鏡写輪眼を有しており、その力は未だ未知数だ。

忍、里、火影、うちは。
この子供は自分達からどんな答えを得ようとしているのだろうか。
永き時が経ち、時代と共に散っていったうちは一族の生き残りはもうこの子供のみだという。

(…結局、こうなったのだ。お前が守りたかったうちは一族はもう居ない)

うちは一族が企てたというクーデター、反乱、そして同胞の抹殺。
里の為、皆の為、千手とうちはの間で懸命に両一族を取り持ち平和を願い続けて来た名無しの努力も願いも全てが無に帰す結果となった。
あの頃の自分達が思い描いていた未来は一体何だったのか。
何を望み生きていたのか今ではもう思い出す事も出来ない。
ただ今もなお消える事のない虚しさと後悔、大きな喪失感だけが燻り続けている。

そんな自身の内に秘める思いに気付かれぬように小さく溜息を吐きながら兄者と大蛇丸とのやり取りを見つめる。

「…里について話してやってもよいが、ちと長くなるぞ」

「出来れば早急にこの子の聞きたい事を話してあげて下さい。…今は戦争中です。うちはマダラが復活し、この世の忍を消すつもりのようです」

思いがけないその言葉にすぐさまチャクラを感知してみれば、はっきりとマダラのチャクラを感じ取る事が出来た。
復活したという事は自分達と同じ穢土転生の身体なのだろう。
死ぬ事もチャクラが尽きる事も無い身体を持つマダラが敵として存在する事の恐ろしさと重大さ。
本当はすぐにでも戦場へと駆け付けたいが、兄者がこの子供を縛るわだかまりを解く事が先だというのならば、自分達には待つ以外に方法は無い。

何だかんだ言っても自分は兄者を信頼しているし、兄者がそう決めたのならばそれに従うだけ。
溜息を吐きながら二人に視線を向ければ、地べたに胡坐をかきながら昔を懐かしむようにゆっくりと話し始める兄者の姿があった。

***

「…今、マダラがどう復活したのかは分からぬが…。オレは確実に友を殺した…、里の為に…。そう…、里とは一族と一族をつなげるものだった」

兄者の口から語られる自分達の過去の物語。
忍、里の始まりとその成り立ち、そして長く続いた争いの歴史。

兄者の話を聞き、本来ならば大切な者達を守る唯一の手段だった里はいつの間にかその本来の意味を失ってしまっていたのだと改めて実感させられた。
結局、本当に大切な者を守る事も幸せにする事も出来なかった。
そして兄者達もまた互いに友として最後までその手を掴む事は叶わなかった。

「子供達を守り無駄な争いを避け、平和を実現するものだった。だが…、君の兄…、イタチが背負ったような闇を生み出してしまった」

「………」

影を背負う者としての覚悟がいつしか里の闇を背負う覚悟へと変わってしまった。
これこそがマダラの言う「本末転倒になった忍の世界」なのかもしれない。

忍とは目標に向け耐え忍ぶ者だと兄者は言った。
目標を叶える為に耐え忍ぶ覚悟。
うちはサスケの兄、イタチもまた忍世界の呪われた運命に翻弄された者の一人だ。
この子供が自分達の話を聞きどんな答えを導き出すのか。
あの時のマダラと同様に里を襲い次のマダラになるのか、それとも…。

「兄さんは柱間…、アンタの意志を直接語る事もなく受け継ぐ者だったって事だ…。そしてアンタ以上に耐え忍んだ。木ノ葉の忍である事を誇りだと語って死んだ。アンタを一番理解した忍がうちは一族だったとは皮肉だな」

「………」

「お前の兄だけではない。ワシの部下にお前の兄と同じようなうちは一族の者が何人か居た。…うちは一族は元来とても愛情深く、自分の大切なものの為ならその身を捧げる。そんな者達ばかりだった」

先程までとは違い、どこか吹っ切れた様な憑物が落ちた様な雰囲気へと変わり、表情も幾分穏やかになったサスケに一族の枠を越え里の為に尽くしてくれたうちは一族も居たのだと語る。
そう語る自分をじっと見つめる兄者の視線に気付かぬ振りをし、少しだけ穏やかだったあの頃を思い出す。

***

「…どうやらワシは火影として失敗ばかりしてしまったようじゃ…。二代目様の里づくりを上手く引き継げなかった」

里の闇をダンゾウに背負わせ、それが結果として今このような状況を作ってしまった。
自分が望んだ里の形とはどんどんとかけ離れて行ってしまっている事には気付いていた。
それでもそれを正す事もダンゾウと共に闇を背負う事も自分には出来なかった。

『俺達がいつか必ずこの里や一族を変えてみせます。だから、諦めないで下さい』

かつて名無し様に言った言葉は空回りばかりで、名無し様が里の為に命を掛けて貫き通した覚悟や守りたかったうちは一族さえ守り抜く事が出来なかった。
あまつさえ、唯一の肉親と殺し合わせてしまったイタチとサスケに対し言いようのない後悔の気持ちが押し寄せる。
今更悔やんだところで何も変わりはしないが、それでも今ここでイタチの真実を語る事が出来た事は唯一の救いなのかも知れない。

(…まさかあの屍鬼封尽の封印を解き、ワシ等を再び現世に呼び寄せるとは…)

自分達はその生涯を既に終えた身。
何の因果かあの時とは違う形で穢土転生され再びこうして柱間様、扉間様と共に現世に喚び出された今この時を「運命」だというのならば、自分にはもう一つだけやらなければならない事がある。
ずっと自分の心に残り続けている言葉、伝えなければいけない言葉がある。
名無し様が亡くなられた後、もう二度と口にする事は無いだろうと思っていた名無し様の真実。

ゆっくりと瞳を閉じ、息を整える。
もう自分達も死んだ身。
これが最後ならば、今この時を逃せばもうその真実が語られる事は未来永劫無いだろう。
これは自分の我儘だが、今はもうただの傍観者としての役目も終わった。
ならばもう、この人の心を縛るものを解き放っても良いだろう。

「扉間様、このような場であるからこそ貴方様に聞いて頂きたい事があります」

ゆっくりと話し始める自分に注がれる視線。
今から口にする言葉が何をもたらすのかは分からないが、止まっていた時間は動かさなければならない。
過去も未来も何も変わる事は無いが、それでも自分は名無し様の本当の思いをこのまま消してしまう事など出来なかった。

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