色気より食い気だな、まあおまえには似合いだ。そのまま肥えてしね。
そう言って鼻で笑ったリヴァイは、今しがたニコが嬉々として「班長、あーん!」と差し出してきた3つめのじゃがいもをくわえたままぽかんとする私を置いてさっさと席を立ってしまった。
なーに怒ってんだあいつは。あ、リヴァイのやつスープ残してるよラッキー。



毒を吐くような口付け





「というわけなんだよ!リヴァイったらいつも以上に理解不能だね。いきなり怒り出しちゃって仕様がないお姫様だよねまったく。上からリヴァイだね。どう思うアルバートくん」
「むしろなんでおまえさんはわからねぇのか、それがわからんよ班長殿!」

ガッハッハ!と実に男らしく下品に笑ったこの男はアルバート・ブリュッケという、私なまえ班の最年長者だ。
がっちりとした筋肉隆々の立派な体躯に燃えるような赤毛が暗闇でもよく目立つ。顎にたくわえた無精ひげがダンディーでステキだと女の子たちが噂しているのを聞いたけど、私からすればただのいかつい顔したオッサンである。
そして奴が私を“班長殿”なんて丁寧に呼ぶときはおおかたからかっているかバカにしているか、はたまた笑い者にしているかのどれかだ。

「わからんから男女関係に無駄に詳しいあんたに聞いてんじゃないよ」
「おまえさんリヴァイと男女の関係なのかぁ?」
「うーん、違う。どっちかというと女王様と犬の関係だな」

アルバートは否定することもなくなるほどな、とだけ言ってエロスな雑誌をめくった。なになに巨乳大特集だと?けしからんじつにけしからん。

「巨乳より上司の悩む心を真剣に見つめようという気はないのかねアルバートくん」
「ばか言え、巨乳をたしなむついでに聞いてもらってるだけマシだ。おれぁおまえらのあれやこれになんて、クソほども興味ないんだからよぅ」
「あれ、ちまたの噂ではダンディズムあふれるフェミニストのアルバート・ブリュッケが私にだけ異様に風当たりが強いのはいったいどういうことだろう」
「え?誰が言ってた?なぁ誰が言ってたんだ?おっぱいはデカかったか?」
「話し相手の言葉の9割をスルーとはいい度胸だ」

前言撤回。ただのいかついオッサンプラス変態おっぱい星人だ。
くたばりたまえアルバートくん、と中指を立てる私をまた笑い飛ばして「おとといきやがれ胸部2次元娘」と親指を下げてくる始末。
上司に対する敬意とか礼儀とかそういう組織の人間として必要最低限なものが著しく欠如していると常々指摘するも「そりゃおまえ類は友を呼んでるんだよ」とひと言のたまうのみ。こればっかりは私もなるほどと納得せざるを得なかったが、だからと言ってリヴァイへの普段の態度をどうにかする気も起きないのでやはり同属か。

「食い物を粗末にしねぇのはなまえの良いところさ。おれぁ飯を美味そうに食う奴好きだぜ」
「わお久しぶりに褒められた!約2ヶ月ぶりにアルバートがデレたよ!」
「まあ色気は絶望的だがな!おまえさんよかそこいらのこんにゃくのがまだ色っぽい使い道があるわ!ガハハ!」
「最低だ、持ち上げといてズンドコに叩き落すなんて。本当にくそだこのオッサン」
「ドンゾコだばかたれ」

あ、私は相談する相手を間違えたんだなと今になってやっと気づいたけど、もう話し始めて30分は経っているのでなにもかもが遅い。こうなってしまえば最後、このオッサンの気が晴れるまでいじくり倒されるのが落ちだ。

「アルバートって実は加虐趣味の変態ロリコンオヤジだよね。あんたに夢見てる女の子たちにバラしてやろうか」
「やめときな班長殿。この場で気絶するまで犯されたくなけりゃな」

巨人を駆逐するときのような凶暴な顔つきで舌なめずりしたアルバートが再びエロ雑誌をめくり、そのページの見出しの“ロリ巨乳”に目が釘付けになっているのを見てドン引きする。実際、奴が手を出す女の子はロリ顔、もしくは本当に10代半ばを過ぎたくらいのロリが大半だ。この性犯罪者め。

「あ、クズを見る目をしてやがる。勘違いするなよなまえ、俺は身の回りのかわいい女たちを無理矢理犯したりしねぇんだ。きちんと合意の上で正々堂々、あまり公にならんようことに及ぶさ」
「なお最低だよ。あんたさっき私のこと犯すとか言ってなかったっけ?」
「んあ?おまえさんのどこがかわいい女なんだ?」

私は本日2度目の中指を立てた。

「もう、アルバートと話してると話がそれまくって何を喋ってたかわからなくなってしまうよ」
「ぐだぐだ悩むよりいいだろ気が紛れて」
「ぐだぐだはしないけどイライラはするね」
「俺はわりとムラムラする。おまえさん虐めれば虐めるだけいい反応するんだもん」
「やめろ。・・・・・・やめろ」

大事なことだから2回言ったが、これで乳さえでかけりゃ抱いてやるのにと最低なことをぶつぶつ呟くロリコンオヤジはちっとも聞いていない。誰が抱かれるかクソヤロウ。
本気で殺意を抱き始めたころ、アルバートはようやく雑誌を閉じて顔を上げてこう言った。

「じゃあまず手始めに、その化粧っけのねぇ見た目から変えてみたらどうだ?乳はこの際しかたねぇから置いとくとして」
「いやあんたがいい加減乳から離れろ。置いとけ壁の向こう側くらいに」

しかし見た目からとは目からうろこだ。食べ物を粗末にする気はさらさらないし食欲も旺盛だから食事を減らすことはできずとも、見た目からであれば結構お手軽に変えられるし。

「おれがやってやろうか」
「えっ、化粧を?」
「道具は持ってるぜ。こう見えて手先は器用だからな、少なくとも初心者でクソ不器用なおまえさんよりマシにしてやれる」
「なんか腹立つけどありがとう!それじゃあ頼むよ!リヴァイをぎゃふんと言わせてやろう!」
「思い立ったが吉日ってな」

部屋にこいよと男前の顔で笑うアルバートの後ろについて歩きながら考える。なぜこのオッサンが化粧道具一式を持っているかについて。
“女を呼んで一晩過ごした後、彼女らが朝の準備に困らねぇようにさ”と一見フェミニストのような、しかしよく考えればゲスな答えが返ってくるだろうことは聞かなくてもわかったので口を閉じておいた。


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