なまえとリヴァイは正反対に見えてその実よく似ていると思う。私は常々そう思っているのだが、本人達にそう言えば声を揃えて「全く似てない!」ときっぱり。
ほら、そういうところがよく似ているだろう?



ぼくの胸で泣いてもいいよ





どんより曇った空から、今にも雨粒が落ちてきそうな午後。そろそろ慢性的な眼精疲労も蓄積してきたところで休憩がてらお茶でも飲もうかと、棚からポットとカップを出した時だった。
こん、こんこんこん。少し他の者とは違うリズムでノックするくせのある人物なんてひとりしかいない。 「いいタイミングだな」 入ってきたのはなまえだった。
彼女は少し開いた隙間からひょこっと顔を出して中を伺い、後ろ手に扉を閉めた。まるで誰かいないか確かめたように。

「ちょうど休憩しようと思っていたんだ、なまえもどうかな。菓子もあるぞ」
「うん、イタダキマス」

甘いものに対する反応がいつもの100分の1くらい薄いなまえは、どこか落ち着かない様子で来客用のソファに座る。
私は手早くポットに葉を入れてお湯を注ぎ、カップをもう一つ出す。クッキーをひと箱全て皿に盛って、トレーに乗せてから彼女の隣へ腰を下ろした。
湯気を立てるカップを手に取る。彼女が話したくなるまで急かさずじっと待つのだ。これまでもそうして来たように。



「エルヴィン、あのね」

カップのお茶がなくなるころ、ようやく重たい口を開くなまえ。私は黙ったまま彼女の言葉に耳を傾ける。
「リヴァイにひどいことを言ってしまった」と。ある程度予想していた通りだった。なまえが落ち込む理由はいつだって彼のことばかりだから。
どうやら些細なことで言い合いになり、売り言葉に買い言葉でつい禁句を口にしてしまったらしい。どうしようどうしよう、リヴァイを傷つけちゃったよ。なまえはひどく落ち込んだ様子で出されたクッキーに目もくれず、小さな手をぐっと握り締めている。
私はその手を包み込むように握って、もう片方の手でやさしく彼女の背に置き、落ち着くまで何度も撫でてやる。

「大丈夫だ、なまえ。リヴァイもきっと許してくれるさ」
「でも、私」
「彼も君を傷つけるような言葉を言ってしまった。痛み分けだよ。それに本心からの言葉じゃないんだろう?」
「うん。リヴァイのそんなところ気にしたこともなかったのに」
「リヴァイもきっとそうだ。今頃後悔しているよ」

クッキーを全て持たせて、謝りに行くという彼女を部屋から送り出したのはそれからすぐのこと。去り際に掛ける言葉もいつもと同じ。

「上手くいかなかったら私のところへおいで」

なまえは笑ってありがとうエルヴィンと言い、急ぎ足で彼の元へ去っていくのだ。



それから私はすぐ部屋に戻り、空になったなまえのカップを流しで洗って、新しくお茶を入れなおす。棚から再び別のカップを取り出してテーブルに置き、必ず来るであろう次なる来客を待っていた。
コンコンコン。規則正しい間隔で扉をノックする音は聞き慣れたものだ。 「いいタイミングだな」 勢いよく扉を開けて入ってきたリヴァイは、つかつかとソファに歩み寄ると乱暴に腰掛ける。眉間の皺は苛立っているからじゃない、落ち込んでいるのだ。
私は黙ったままお茶を入れて彼の目の前に置き、手や背中に触れることはないが、付かず離れずの距離で腰掛ける。あとはリヴァイが口を開くまで急かすことなくじっくりと待つ。なまえの時と同じように。

「エルヴィン」
「ああ、わかっている」
「そうか」

カップのお茶がなくなるころ、やっと一言言葉を発したリヴァイ。

「売り言葉に買い言葉だ」
「ああ」
「痛い思いをしたのはお互い様。なまえだってきっとわかってるさ」
「・・・そうだな」
「だけど後悔してるんだろう。言わなくてもいいことを言ってしまって」

じゃあやるべきことはひとつだ。
リヴァイはカップの中身を一気に飲み干すと、再びつかつかと扉に向かって歩き出す。私はその後を追って彼の後姿を見送った。最後に掛ける言葉はいつもと同じ。

「上手くいかなかったら私のところへ来るよ」

リヴァイは鋭い視線で私を一瞥し、きびすを返して自分を探しているであろう彼女の元へと足早に去っていった。


なまえとリヴァイは正反対に見えて、その実よく似ていると思う。
例えば、相手を傷つけたことで頭がいっぱいで、自分が傷つけられたことを忘れているところとか。
世話の焼ける部下たちだ。しかしなんとも可愛らしい、愛さずにはいられない友人たちだった。
やれやれ。小さく息をついてティーカップを見る。すっかり冷めてしまったお茶に、なんともしまりのない笑みを浮かべた自分の顔が映っていた。

上手くいかなかったら私のところへ。その言葉の通りになったことは今までただの一度もなかったし、おそらくこれからもないのだろう。


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