叫べ


俺の好きな二人の話をするよ。

まず一人目、浅葱凪。
俺は凪に恋愛感情を抱いてる。
愛しくて愛しくて愛しくて、これ以上に無く愛しく感じて、偶に自分が何処かにネジを落っことしてしまったように感じる。
だって本当に好きすぎて、その一言、その表情、その仕草に、一々愛しさを感じてしまう。
最初は一目ぼれで。
黒よりも少しだけ薄いその瞳だとか。
雪みたいに白い肌だとか。
真っ赤では無くて、程良く色づいた唇だとか。
色素が薄すぎる髪だとか。
透き通った声だとか。
全部全部に惹かれた。
次はその中身に惹かれた。
見た目に反して結構な毒舌だとか。
何だかんだでちゃんと話してくれるところとか。
意外と面倒見が良い所だとか。
どうしようもない程優しくて、どうしようもなく寂しい所だとか。
つまり凪の全部が好き。
凪の我儘だったら出来る範囲(勿論俺だって幸せになりたいので、死ねと言われても死ねない)で叶えてあげたいし、凪が笑っていられるなら俺はどんな道化にでもなれる。
少しでも凪の寂しさが和らぐならば、それでも良いと思った。
でも、凪は決して自分の領域には入れてくれない。
やんわりとした拒絶。
ある一定の範囲を絶対に越させてくれない。
それは俺に対して信頼が無いとかではなく、ただ単純に凪の無意識のうちに防衛手段なのだと思う。
そして凪自身はそれに気付かないふりをして、意図的に忘れて、非意図的に人を遠ざけている。
意識下の無意識、なんて矛盾も良い所だけれど、凪に関してはこれで間違ってないと思う。
だから俺がどんなに凪に対して愛を叫んでも、凪はそれを気にしないでするりと抜けて行ってしまう。
どこに向かうわけでもなく、そこにいるのに、決して掴ませてくれない。
まあ、そんな所も含めて凪の事を好きなんだけどねっ。


二人目は朝倉要。
凪の従兄で、凪と一緒に暮らしていて、凪の事が好き。
だから恋敵ってことになるんだけど、要の事は好き。
勿論恋愛感情では無く、友達として。
要はとても良い友達だ。
少し無愛想だけれど、面倒見がとても良いし、とても優しい。
成績優秀で、運動も出来るし、料理も出来る。
顔は特に良いと言う訳では無い(だって比較対象が凪だから)のだけど、でも決して不細工では無い。
寧ろ世間一般的に見て格好良い方。
だから密かに女子に騒がれている。
でも、小学校の頃の要は苛められっ子だったらしい。
あんまり詳しくは聞いてないけど(要が少し言いたく無さそうだったから)、結構不条理な理由で苛められていたのだろう(苛めの理由なんて大抵不条理だけど)。
その頃は運動も勉強も出来なくて、今と正反対だったらしい。
そんなんだから、今の要があるのは努力の塊だからだろう。
努力して努力して努力して。
すっごく苦しかったと思う。
だって努力が絶対報われるわけではない事も要は知っている。
だけど、要は努力している。
痛みを知っているから、要はとっても強い。
その強さが、俺はとても好き。

この二人がとても好き。
そして、二人の内の一人、要が今日は風邪でお休み。

「なーぎー」

昼休み、弁当箱を持って凪の教室まで行けば、凪は窓際の自分の席に一人で座って、いちごミルクを飲んでいた。
ちらりと視線をこちらに向けて、その後目線で前の席を指した。
丁度空席だったのでその椅子を借りて凪と向き合う形で座る。

「お昼もう食べたの?」
「んーんー」

お昼御飯が見当たらなかったので訊くと、凪はストローを口に含んだまま首を左右に振る。

「持ってきてないの?」
「んー」

首を上下に振る。

「ちょ、ダメだよ凪!ちゃんと三食食べなきゃ!」
「だって購買混むし」
「だからって!だからこんなちっちゃくて細いんだよ!!」
「ちっちゃいは余計だよ」

ストローを再び口に含んで、ふいっとそっぽを向いた凪。
あ、可愛い。ほこほこする。
けど、

「ああもうそんな凪も可愛いけど食べなきゃダメ!ほら、俺の半分あげるから!!」

そう言って蓋におかずとご飯を半分ずつ盛る。

「はい」
「別に良いのに……」
「ダメなの!」

凪はしぶしぶ其れを受け取って(箸はたまたま鞄の中にコンビニの割りばしが入っていたので其れを使っている)、箸を持った。
それを確認すると、俺も自分の分を食べだす。
凪が卵焼きを一つ食べたのを見て、訊く。

「おいし?」
「おいし」
「本当に?」
「本当に」
「このお弁当、俺が作ったんだよ」
「おいしいよ」
「……えへへ」

気を使ってるんじゃないか、と思って訊いたけど、考えれば凪はあまり俺に気を使わない。
もぐもぐと口が動いて、ごくりとそれを飲み込むする。
その小さな動作すら可愛い。

「凪ー」
「んー?」
「要のとどっちがおいしい?」

へらり、笑いながら訊くと、凪は口に入ってる物をゆっくりと咀嚼すると、いちごミルクを一口飲んだ後に、

「比べなきゃいけない?」

と、首を傾げた。

「要の料理は要の味がするし、雪麗の料理はちゃんと雪麗の味がするよ。卵焼きがちょっと甘過ぎるところとか」

それで、どっちもおいしいと僕は思うけど。

そう付け足して、ふわりと笑った凪の言葉に、笑顔に、どうしようもない愛しさを感じて。

「凪ー」
「うん」
「好きー」
「ありがとう。お弁当美味しかった」
「どういたしまして」

人から見たら報われていないだけのこの会話だって、俺にとっては愛しいだけの会話になる。
これで良いんだと思う。
凪は俺とは結ばれない。
それでも良い。
凪が幸せに笑っていられる日常があるなら、それでいい。
そしてその日常に、当然の様に要が居れば良い。
それで、俺は十分すぎる幸福を感じる。

愛しくて可愛くて温かくて、そして寂しいこの二人が、幸せでいてくれれば良いと思う。
俺はその日常に偶に顔を出して、幸せな二人を見ているだけでいい。

傍から見てると格好付けてるだけとか、偽善者だとか思われるかもしれないけど、そう言われても良い。
勿論俺だって凪と恋人になりたいけど、要から凪をとってはいけないのだ。
きっとあの二人が結ばれてしまえば俺は泣くし、要の事を恨めしく感じてしまうかもしれない。
けど、それでも、月並みだけどあの二人が幸せなら、俺も幸せになれる気がするんだ。

「要、早く風邪が治ると良いね」

つまり俺は、形は違えど二人ともどうしようもなく愛しいんだ。

(今にも喉を割いて君たちへの愛が零れてしまいそう!)







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