3

眉間に皺を寄せて、怪訝な表情で自身を見る凪を、小春はさして気にもせずパスタを口に運んだ。
その様子を一通り眺め、小春の喉が動いたのを見て、凪は首を左右に振る。

「嫌ですよそんなの」

その返答に今度は小春が怪訝な顔をする番だった。
凪はゆったりとした動作でグラスに手を伸ばすと、残っていたジュースを飲み干す。
そして、ゆるゆると頭を持ち上げ、真っ直ぐ小春を見据えた。
パチリ、と小春の茶色がかった瞳と視線が合う。
少しだけ間を空けて、息を吐きながら言葉を紡いだ。

「他の婚約者候補を一蹴する理由作りの為でしょう?」
「察しが良くて助かる」
「話の流れで何となく掴めますよ。とにかく嫌です」
「ふりをするだけだろう?」
「余分な恨みは買いたくないんです。九鬼のお嬢さんが随分と貴方にご執心だと聞きましたからね」
「ああ、多分候補の中では一番の有力株だと言われた。……最も、家の奴らは君と俺をくっつけたがっているがな」
「だったら尚更、冗談で済まなくなりそうですね。謹んでお断りいたします」

それだけ言うと、 凪は立ち上がろうとテーブルに両手を着いた。
僅かに腰を浮かした所で、小春が肩を竦めながら溜め息を吐いた。
そして、

「解った、じゃあ話を代えよう」

小春は両手を肩の位置まで挙げて、落ち着けと軽くマイムする。
それに凪がしぶしぶ席に着きなおしたのを確認して、にっと笑った。

「『浅葱凪』は、便利屋をしていたな?」
「……ええ、まあ」
「じゃあ、こうしよう」

人差し指を立てて笑った小春に、凪は頬を引き攣らせた。
これからくる言葉を予想して、息を吐いた凪に、小春は楽しげに唇を動かした。

「君を、便利屋として俺が雇う。そして、君はその仕事として、俺の恋人のふりをする」

勿論謝礼は弾むぞ?

そう言って笑った小春に、凪は諦めた様にデザートもお願いしますね、とぼやいた。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -