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ほかほかと料理が美味しそうに湯気を立てているのを見て、凪は上機嫌でフォークを取った。
テーブルマナーは冷菜に仕込んで貰ったので完璧ではあるが、凪はそこまで気にしない。
ようは、相手を不快にさせなければいい。
自分も相手も美味しく料理を食べれれば十分である。
凪は器用にくるくるとカルボナーラを巻きつけた。口に丁度収まる程度の量を巻いて、口に運ぶ。
もくもくとその作業を繰り返す凪に、小春は首を傾げて訊いた。

「美味しいか?」
「――美味しいです」

口の中の物を無くし、水を一口飲んだ後に、凪が首を傾げながら答えた。
何故そんな事を訊くのだろう。
表情がそう語っていたので、あまりにも無表情で食べるから、と小春は肩を竦めた。

「……美味しい物って集中して食べちゃうんですよね」
「まあ、美味しいならいい」

とりあえず、食べながら話すぞ。
小春はそう言って、フォークにパスタを巻き付けながら話始めた。

「端的に言おう。俺の婚約者の候補に君の名前がある」
「……はい?」

短くそう告げた小春に対し、凪は動作を止めた。
梅枝と言うのは妖払いの血筋であり、今現在、林に次いで結構な権力を握っている家名である。
だから、その血筋を絶やさない為にも婚約者という存在はあってしかるべきだとは思うが、しかしそれに自分の名前があるとは初耳だ。

「…確かなんですか?」
「浅葱の娘と言ったら君しかいない」
「そう、ですけど」

婚約者ねぇ、と口内で呟いて止めていた動きを再開させる。
パクリ、とフォークをくわえて、もごもごと口を動かす。
そして、こくり、と喉を鳴らしたところで、口を開いた。

「良いんじゃないですか?」
「……は?」
「浅葱と言えば、もう殆ど廃れているとは言え、元は大層な血筋ですからね。未だにネームバリューはありますし。梅枝は、言わずもがなですからね。お互いに損はありませんよ」
「好きでもない相手と結婚だぞ?」
「まあ……そのうち情も沸くでしょう」
「――俺と結婚するんだぞ」
「はい」
「つまり、その血筋を残さなければならない――この意味、解るだろ?」

じ、とこちらを見ながら真剣な面持ちで言った小春に、凪は一息吐いた。

「ええ、解りますよ。子孫を残すためにそれなりの行為をしなければならないでしょうね」
「それを解っててさっきみたいな事を言ったのか?」

じろり、と睨む小春に、凪は首を竦めてフォークにパスタを絡めた。
凪が何も言わないので、小春も口を閉じて食事を再開した。
カチャカチャと、耳障りにならない程度で食器が触れ合う音が二人の間に流れる。
パスタを全て平らげた所で、凪が顔を上げた。

「――で、何でその話を僕に?」

婚約者が嫌ならわざわざ凪に言わずに小春が直接拒めばいいのである。
梅枝の人達は考えは些か古いが、まったく融通が効かない訳ではなかった筈だ。
凪の言葉に、小春はパスタをさらえてフォークを置いた後、口を開いた。

「――浅葱」
「はい」
「婚約者――否、恋人のフリをして欲しいんだ」

至極真面目な表情で言った小春に凪は、

「……はい?」

酷く間の抜けた声を返した。




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