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珍しい人間から呼び出しが来たものだ、と凪は手元に有る手紙を見つめた。
シンプルながらもデザインの施された封筒の中に一枚のカード。
そこに書かれた名前に、凪は目を細める。
おそらく、この差出人は自分を嫌っていた筈である。
いや、嫌っていなくても些かのライバル意識を持っているのは明白なので、わざわざこうして自分を呼びだす理由が見当たらない。
凪は首を傾げながらも、手元に置かれたグラスを取りながら周りを見た。
目的の人物はまだ現れないらしい。
オレンジジュースを口に含んで、視線を下に向ける。
いつもに比べ、ややドレスアップのされた服装に、思わず息を吐いた。
如何にも高級感漂うホテルのレストランが、指定された待ち合わせ場所である。
流石に私服では浮いてしまうだろうと言う事で、冷菜にお願いして丁度良い服を見立ててもらったら、こうなった。
――早く帰りたい。
凪は内心そうぼやくとほぼ同時に、目の前に影が落ちた。

「待たせた」
「ええ、本当に」

にこり、とした笑みに、同じように凪も笑みを返した。
シンプルなグレーのスーツを着た、長身ではあるが細みの青年だった。
少々癖の付いた髪をやや長めに伸ばして、ワックスか何かで浮かせている。
銀フレームのメガネが良く似合っている。
青年は笑みを崩すことなく続けた。

「悪かった、少々仕事が立て込んでて」
「予定時刻よりも遅くなってしまったんですね。自身の力量を見誤るとよく起きることです」
「……」

凪の笑顔に、若干ひきつった笑みを返しながら、青年は凪の目の前に座った。
少し落ち着いた頃合いを見計らって、メニューが差し出される。
凪はそれを受け取って、パスタが食べたい気分だ、とパスタの項に目を滑らせる。

「ボンゴレスパゲティ」
「――じゃあ、カルボナーラで」
「ワインは……」
「未成年です」
「そうだった」

青年が肩を竦めながら、ソフトドリンクを二人分注文する。
綺麗な一礼をして去って行ったボーイを目で追うことなく、青年は口を開いた。

「悪かった。呼び出した挙句待たせてしまって」
「いえ、大丈夫です。――美味しいご飯を御馳走になれるんですから」
「……君の興味はそこか」
「そうですねぇ……貴方が嫌っている人間をわざわざ呼び出した理由はとても気になりますね」

唯の会食じゃないんでしょう?
ゆっくりと細められた目に、青年は軽く肩をゆすった。

「嫌っている訳ではない」
「でも好きとは言えないでしょう?」
「まあ、な」

苦笑をにじませた声に、凪は溜息を吐いて、

「僕が言及したいのはそこではないのですがねぇ。――理由は教えてくれるんでしょう?小春さん」

くすくすと子供の様に笑う凪に、青年――梅枝 小春は、勿論、と笑った。





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テーマ「人外ファンタジー」
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