prologue

ぱしゃん――。

水音が響く。
水面に月が浮かんで、時折揺れる。
少女はそれを見ると、そっと水に手をつけた。
ゆらり、と水面が光るのを見て、少女は悲しそうに目を伏せた。
そして目を閉じると、勢いに身を委ね、吸い込まれるように水の中に落ちていった。
とぷん、と耳に入る音はどこまでも優しく、どこまでも透き通っていて、どこまでも冷たい。
と、一瞬何かが光って、再び少女が顔を出した。
黒髪は濡れ、月明かりに照らされて艶やかに流れる。
つうっと少女の頬を水がつたった時である。

「帰りたい?」

何処からか問い掛けられた問いに、少女は辺りを見渡す。

「……誰?何処にいるの?」

少し震えた声で聞くと、声はくすくすと楽しそうに笑っている。

「ここにいるよ。君の前。真ん前」
「!!」

顔を少し上にあげると、フェンスの上に一人の少年がいた。
月を背にしている。
逆行の為表情は見えないが、恐らく笑っているのだろう。
ぞくり、と背筋を逆なでされたような感覚に陥る。

「誰?」
「そんなに警戒しなくても良いのに」

俺は君の味方なんだけど、と笑う声に、少女は眉を顰める。

「味方……?誰?何なの?」
「さあね。でも君が君のあるべき場所に戻る為の方法なら解るよ」
「わたしの……あるべき場所?」
「そう。そして君が帰りたい場所」
「何……」
「君は俺が言う通りに動けばいい。それだけだ」

それだけで、俺は君の願いを叶えられる。

「願い……」

少女が震えた声で呟く。
少年は口角を上げて笑む。

「さあ――どうする?」

少年の声は酷く魅惑的で、まるでアルコールが体の感覚から脳に至るまでとっぷりと侵して行くように少女の鼓膜を震わす
気が付けば少女は微かに震える唇をこじ開けていた。

「帰り、たい」

そして少女は少年の手を取った。
少年の笑みに感じた、微かな嫌悪感は気のせいにして――。






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