18

ちらちらと雪が降る。
吐く息が白い。
寒くて寒くて、もう痛みを通り越して何も感じなくなりそうだった。
幸い銀は元々寒さには強いので、さして気にならなかったが、ちらりと隣でぼうっとしている主人を見上げた。
凪はただ、灰色の石を見ている。
もっとも、凪が見ているのは墓石ではなく、その下にいる人間なのだろうが。
銀はそっと凪の肩にのって、少し積もっている雪を払った。
ぴくっと凪が少し反応して、驚いたように銀を見る。
そして、降っている雪を見て、ああ、降ってたんだ、と呟いた。

「――邪魔したか?」
「ううん。いいよ。このままだと凍死する」

凪は苦笑交じりで言うと、立ち上がって雪を払う。

「寒くないか?」
「ううん……良くわかんない」

あはっと笑う凪に、銀は呆れたため息を吐く。
凪は銀を肩から下ろすと、ぎゅっと腕で抱く。

「あったかー」
「……」

カイロにされていることに大して文句を言わず、銀は大人しくじわじわと体温を上げる。
狐の特性が火の能力であるからこそ出来る事である。
凪はもう一度墓石をみると、深々と会釈をして、そして踵を返した。

――   、

「……?」

歩き出そうとした瞬間、声が聞こえた気がした。
ふと、振り返るが、当然のことながら誰もいない。
凪は首を傾げると、きょろりと周りを見渡して、最後に斎槻の墓に視線をやる。
もしかして斎槻が何か言ったのかな、と考えて、まさか、と、直ぐに自身で否定した。
ちらり、と雪が凪の鼻先をかすめた。
じわり、と溶ける冷たさに、ああ、そういえば、と凪は思い出す。
寒さのあまり、斎槻に何故雪が降るのかと不満交じりで呟いた時だ。
斎槻は少し困ったように笑って、そして、優しいから雪は降るのだと、いつもの様に優しく言ったのだ。
世界が優しいから、優しいからこそ、傷つきやすいから。
それを慰める為に降るのだと。
真っ白い雪で地面を包んで、一冬かけてその傷を癒すのだと。
そう言って、優しく笑った。
あの人は、雪が、そしてこの世界が、好きだったのだ。
凪はそれを思い出すと、すこし目を伏せた。

「――凪?」
「……ん?」

気がつけば、ぼうっとしてしまっていたらしく、銀が心配そうに見上げている。
大丈夫?とどこか疑うように訊かれ、凪は薄く笑って、大丈夫、と答える。
そして、

「帰ろうか」

と言笑って、少しだけ早足に墓地を出た。


ねえ、斎槻。
世界は優しくなんてないよ。

そう言ったら、あの人はどう返したのだろう。
何ていって、笑ったのだろうか――。






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