17

斎槻の葬式は極少ない人数で行われた。
元々斎槻に縁者は居なかったらしく、その為親類だと言う人は一人も見つからなかった。
だから、親しい友人、知人のみが集まっているらしい。
斎槻が――正確には斎槻だった体――が入っている棺桶の前で、女性が泣いていた。
その隣で、白い髪の男性――老齢というわけではなく、色が抜けてしまっているだけのようだ――が斎槻の隣に白い花を添える。
凪はその様子を後ろから見ながら、ああ、けっきょく桜、見にいけなかったな、とぼんやりと考えた。
前の二人が棺桶の前から離れる。
凪はのんびりと棺桶の前に立つ。
手に持った白い花を見て、桜見たかったなぁ、と自身でも少々不謹慎だなと内心ぼやいて、花を棺桶に入れた。
そして、

「斎槻、私は斎槻の事が好きだったよ」

凪はそこで言葉を区切ると、ふと不自然な程に柔らかいな笑みを浮かべた。

「好きです、大好きです、愛してるんです。これ以上なく、誰以下でもない」

つらつらと、死体に向かって愛を述べている様は傍から見たら異常だったかもしれない。
しかもそれが年端もいかぬ少女なのだから、余計にである。
しかし、凪が自然にその言葉を紡ぐためか、誰も疑問に思わない。
まるで別れの言葉のように。
まるで、何かを誓うように。
まるで、まるで――。

「……斎槻」

ふっと、凪が笑う。
その表情に表れているのは、確かに愛しみだった。
それと同じくして、僅かな嫌悪感がじわりとせり上がってくるのを、凪は確かに感じていた。
自分自身に対するどうしようもない嫌悪感。
それを自覚してもなお、凪は頬笑みをその顔に湛えた。

「さようなら、それと、」

あなたを死なせてしまって、
あなたを利用してしまって、

「ごめんなさい」

そう言って、凪は踵を返した。

しゃらり、と耳元で涼やかな音を立ててピアスが揺れる。
葬式の前に、涼に着けて貰ったのだ。
元々斎槻はこれを凪にあげるつもりだった、と涼は言った。
凪がそれをいたく気に入っていたから、ある程度の年齢になったら渡そうかと考えていたらしい。
凪はそれを少し弄ると、目を伏せて、もう一度、ごめんなさいと呟いた。





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