16

深い暗闇に落ちていく途中に、無理矢理浮上させられたような感覚で目を覚ました。
「――ん」
目がさめて凪がいたのは、自宅のリビングのソファーの上だった。
「起きたか」
横から飛んできた声に視線だけをきょろりと動かす。
一周廻った所で、漸く涼が少し離れた所で椅子に座りながらこっちを見ている事に気付いた。
涼はゆるりと椅子の背に凭れかかりながら、

「斎槻が死んだ」

そう言って、目を閉じた。
凪は、そうですか、と少し枯れた声で返事をして、ぼんやり窓の外を見やる。
外は薄明るかった。
のそのそと起き上がり、洗面台に向かう。
鏡を見て、肩を過ぎて大分長くなった髪を一房つまんだ。

――綺麗な髪だね。

一瞬、ふっと胸の内が暖かくなって、それとほぼ同時にきゅっと心臓が氷につつまれたかのように冷たくなる。
鏡の向こうで、薄らと笑みを作る自分を見やる。
表情と内情が噛みあっていない事に内心嘲笑すると、横に置いてある鋏を掴んだ。

しゃきん――

刃と刃が擦れる音が響く。
ぱらぱらと、色素の薄い髪が洗面台に散らばる。

しゃきん、しゃきん、しゃきん。

最後に少しだけ大きく音を立てて、凪は挟みを置いた。

「……あは」

鏡の向こうの子供は、少しだけ楽しそうに、そして、自身を嘲る様に笑った。





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