15

すっかり気持ちが落ち着いた頃には、凪は病院にいた。
まっしろい壁に囲まれたそこは、昼間なら患者や看護士が忙しなく動いているのだろうが、今は殆んどいない。
見回りの看護婦が時折廊下を通るくらいだ。
薄暗い空間で、ちかちかと『手術中』と書かれた赤いランプが点滅する。
一応まだ助かるかもしれないという事で、三時間ほど前――ちなみに斎槻が事故にあったのが午後四時ごろなので、今は夜の七時だ――から手術が続けられているのだ。
凪はそのランプをぼんやり眺めながら、漠然と理解した。

斎槻は死ぬ。

まだ赤いランプは点滅したままだが、きっと、斎槻は死ぬ。
随分あっけないものなのだな、と凪は思う。
その目から涙は零れない。
ごちゃごちゃとした感情が引く頃には、もう泣く程の気力はなくなっていた。
ぼうっとソファーに座ってその背にもたれ掛かる。
時折人間以外のものの影が見えるが、気に掛けてはいられない。
視界の端で動くそれを、視線で追うことすらも面倒だと思えるほどに疲れが酷いのだ。
ふう、と目を閉じ、天井を仰ぐ。
さらりと色素の薄い髪が肩から流れた。

――そういえば、斎槻をはねた人間はあっさりと捕まったらしい。

凪は最早その相手すら恨む気にはなれなかった。
否、相手を恨むよりも先に、「私が斎槻の手をにぎっていなかったら」とか、「もしあの時私が立ち止まらなければ」とか言う気持ちの方が先行して、そんな気になろう物なら、一気に我が身へと後悔の念が押し寄せてくる。

――斎槻が死ぬ。私のせいで。

ふと、瞼を下ろす。
体中の疲れがどっと押し寄せてきて、ソファーに体を沈める。
意識が少しずつ遠のいていく中、そういえば師匠はどこに行ったのだろう、と考える。
先ほどまで一緒にいたはずなのに――。
そこまで考えて、凪は意識を手放した。






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