13

闇の中を、白い牡丹雪がちらりちらりと降っているのを見て、ああ、これは明日は止むかな、と斎槻が言った。
その時期は雪が降る事事態は然程、というか全く珍しい事でも無かったが、ここ数日降りっぱなしの雪の所為で、買い物に行く足がすっかり遠のいていた。
もしそうだったら助かるな、と凪はぼんやり考え、深めの皿に入ったスープを平らげた。

「斎槻」
「ん?」

不意に名を呼ばれ、斎槻は少し驚いたように返事を返す。
涼はグラスを二つを片手に持って、飲むだろ?と言った。
もう片方には酒瓶が握られている。
斎槻は頷きかけて、少し照準するように凪を見た。
子供――凪の事である――の前で飲酒するのが憚られるらしい。
その視線の意味を感じ取ると、凪はどうぞ、とだけ言った。
そして、テーブルの上に置いてある三人分の食器を器用に全部持つと、台所の洗い場まで持っていった。

「凪。何かつまみ無いか?」
「急に言われてもないですよ」

と言いながら、凪は冷蔵庫を探る。

「……ハムならありますけど」
「それで良い」

いいのか、と凪は内心突っ込む。
本当にこれだけではあんまりなので、冷蔵庫に有る食材で適当に和え物を作って持っていく。
持って行くと、もう既に涼は飲み始めている。
斎槻はのんびりとした動作で凪の持ってきたつまみを、ありがとうと言って受け取った。
そして、自分のグラスに酒を注ぐ。
凪は再び台所に戻って、シンクに溜まっている食器を洗う。
少しぼうっとしながら洗っていると、するりと手からコップが一つ落ちた。

「あ」

しまったと思って視線でコップを追うと、もう既に床と衝突して割れてしまっていた。
凪は台から降りる――背が足りない為、踏み台に乗りながら洗物をしているのである――と、破片の隣にしゃがみ込んだ。
そして、大きな破片を拾おうと手を伸ばすと、それを横から遮るように手が伸びた。

「あほ」
「……?」

ふってきた声に凪は顔をあげる。
そこには、いつもと同じ無表情な涼がいた。
そして、斎槻が後から箒と塵取りを持ってやって来る。

「ああ、派手にやったね」

怪我は無い?と、凪に優しく聞く。
凪はふるふると首を左右に振って、そして、涼を見た。
涼は箒と塵取りを見ると、凪の手を離してさっさと戻ってしまった。
なんだったんだろうか、と凪が考えていると、斎槻がクスクス笑いながら、

「割れたガラスを素手で持つと危ないからね」

と、言った。
そして、凪に塵取りを持たせ、ガラスの破片を片付け始めた。

「――ああ、このガラス桜の花びらみたいな形してるね」
「?」

塵取りに入っているかけらの一つを指差して言う斎槻に、凪は塵取りを覗き込む。
斎槻が指差した先には、片方がV字型に欠けている少し細長いガラスがあった。
凪はそれを見ると、首を傾げ、

「さくら……?」

と訊いた。

「うん。桜の花びら。――見た事無いかな?桜」
「写真でなら」

凪は答えると、口の中でさくら、さくら、と、意味なく反復する。
ふと、頭の上に温かい衝撃がくる。
斎槻の手が、凪の頭を優しく撫でていたのだ。
凪は不思議そうに斎槻を見上げると、斎槻は優しく微笑んで、

「春になったら、一緒にお花見行こうか」

と、言った。
凪はそれに頷いた。





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