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「――……」
涼が帰って来て、リビングに誰も居なかったので凪の部屋を覗いてみると、それに気付いた斎槻がしぃーと口元に人差し指を立てる。
斎槻の膝の上で寝ている凪の為だろう。
涼は静かに部屋に入ると、そっと扉を閉めた。
「寝てるのか?」
「うん。――疲れたんだろうね」
「―――そうか」
優しく凪の頭を撫でて言う斎槻に、涼は敢えて何も言わずに頷く。
そして、しゃがんで凪と目線を合わせる。
かすかに腫れて赤くなった目元に、そっと手を当てた。
熱を帯びたそれは、薄っすらと濡れている。
涼は立ち上がると、斎槻の膝から凪を抱え起こし、
「リビング暖めるからそっち行くぞ」
と言って、部屋を出た。
リビングには薪ストーブと暖炉があって、涼は凪をソファーに寝かすと薪ストーブの方に火をつけた。
そして、
「見ててくれ」
と、斎槻に言って、さっさと部屋を出て行ってしまう。
が、又すぐに白いタオルをもって戻ってきたかと思うと、台所の水道でそれを濡らした。
斎槻は最初首を傾げていたが、涼が何をしたいのか理解すると、クスクス笑って、
「優しいね」
と、言った。
その言葉に涼どこかバツの悪そうに顔をしかめると、凪の目元にそのタオルを当てた。
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