8

斎槻が家に来て数日が過ぎた。
斎槻が手伝ってくれるので凪は家事が楽になった。
涼は元来家事をしない。
いや、正確にはできないのだ。
電子レンジを使えば電子レンジが燃え、
洗濯機を使えば洗濯機が水没、
食器を洗えば十枚につき五枚以上は割る。
あまつさえ、コンロを使えば必ず炎上、である。
しかしパソコンなどは扱える為、機械音痴ではなく、家事音痴なのだろう。
よって、いままで凪が家事をしていた。
そう考えると、嬉しい来客――と言うほどの持て成しはしていない上に、家事手伝いまでさせているのだが――だった。
内心そう思いながら、凪はほどよく温まったココアを一口飲んだ。
ふっと息を吐く。
ココアが温かいからか、部屋が寒いからかは解らないが――恐らくどっちもだろうが――吐く息が白い。
ちなみに凪が今いるのは自室である。
残りの二人は、片道二時間はかかる町まで買い物をしに行っている。
つまり、凪は今、この家で一人きりなのだ。

「……ひま」

凪は誰に言うでもなく呟いた。
ベッドの横にある小さな机にマグカップを置いて、ベッドに寝そべる。
ぼんやりと、マグカップから湯気がたっているのが見える。
この家の書庫にある本は嫌と言うほど読み尽くしたし、あいにくこの家に気の利いたゲームはない。
テレビは有るが、特別面白いと思える番組は無い。
新聞は一通り読んだ。
夕食の仕込み――今日はシチューである――も終ったし、掃除も洗濯もした。
涼達が帰ってくるのは――朝の十時に出て行って、今が午後一時だから――少なくとも後二時間後だろう。
寝返りをうって、ぼんやりと天井を見る。

「――……」

先ほどと同じ事が口をついて出そうになり、それを止める。
何だか馬鹿らしくなってきた。
凪は間の抜けた欠伸をすると、目を閉じた。
飲みかけのココアの事が少しだけ頭に浮かんだが、もう寝る体制になっていた為、「まあいいいか」の一言で片付けられた。
少しの浮遊感の後、ぐっと沈んでいく感覚。
ふと、目の前が暗くなって、凪は意識を手放した。
窓の外では、雪をたっぷりとたたえた木々が、枝をしならせていた。
そして、それは弾けるようにして、大きな音を立てて、地面に落ちていった。





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