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雨が降る。
しとしとと。
一雨ごとに空気が冷やされて、少しずつ気温が下がっていく。

「……寒くなってきたな」

白く曇る窓を、ぼうっと見ながら涼が呟いた。
それに呼応したのは、色が完全に抜け切った白い髪の男だった。

「もう12月も半ばだし。――そろそろ雪に変わる頃だな」

その男――晃は、涼と一応幼馴染という関係である。
その足元で、猫がみゃあと小さく鳴いた。

「そうだな」

窓から離れて我が物顔で悠々と一人掛けのソファーに座った涼は――ちなみにここは晃の家である――ソファーの前に置かれた小さな机の上にある小瓶のコルク栓をつまんで持ち上げる。
コルク栓が抜けてしまいそうな持ち方だ。
晃はその持ち方を注意して、

「――睡眠導入剤だよ。不眠症の客から頼まれてね」

涼が問う前に答えを言った。
ふうんと涼は呟くと、少量掌にとって舐める。
そして、まずい、と一言。
晃はそれに当たり前だろうという視線を投げると、何やら乾いた植物を小さなすり鉢ですりつぶした。
漢方を作っているのだ。
水分を失っている植物はあっという間に原形を失ってさらさらとした粉末に変化する。
そしてそれは瓶に移され、小鉢はすぐ隣の流し台に置かれる。
涼は特別それに興味を持たずに、少し伸びをして、そして足が机に当たったのを見ると、

「狭い部屋だな、相変わらず」

淡々と言った。
事実を事実としていっているような口調だ。
それに晃は軽くこめかみを引きつらせた。

「それのせいでな」

と、涼を――正確には、涼の座るソファーを指差した。
今二人がいるのは晃が漢方を作る為の部屋である。
元々差ほど広い部屋ではなかった。
器具を洗う為の流し台、器具を保存する為のガラス戸がついた棚、漢方に関する本がぎっしりと詰まっている本棚、官報を作る為に必要な材料が保管されている棚、小さいデスクワークにそれの為の椅子。
これが本来この部屋に備えられた物である。
そして、此れだけならまだ部屋に余裕があったのだ。
問題は部屋の中央に堂々と陣取っている、現在涼が座っているソファーにある。
そしてこのソファーは涼が持ち込んだものなのである。
ある日いきなり家に来たかと思うと、このソファーをこの部屋において帰ったのだ。
しかも、ご丁寧に床に固定までしてある。
これでは退けようと思っても中々出来ない。
そして、そのソファーのせいで僅かばかりだったがそれでも残されていた部屋の余裕が、完全になくなってしまったのだ。
言外にお前のせいだと言うと、涼は聞かぬふりをしている。
晃は又何か言おうかと思ったが、溜息と共に口を閉じた。
もう何を言っても無駄だろう。
伊達に何年も付き合っているわけではない。
そこで、ふと晃は思い出した。

「そういえば、明日は斎槻の命日だな」
「――ああ」

晃の言葉に、涼は少し間を空けて返事をする。

「昨日、凪があっちに行った」

毎年毎年飽きないよな、と涼が呆れも感心も滲ませない声で言った。





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