prologue

雪が降っていた。
白い色が疎らに、それでも確実に世界を包んでいく。
身を刺すように冷たい空気。
気がつけば白一色に世界は染め上げられている。

「――」

――?
誰かが誰かを呼んでいる気がする。
誰が?
誰を?
――僕を?

「――ぎ」

ああ――又聞こえた。
声が遠いのか、はっきりとは聞こえないけれど、それでも確かに呼ばれている。
耳を澄まして、声のほうを探す。
見つけた。
白の中にぽっかりと浮かんだ、違う色。
誰かが立っている。
誰?
目を細めてみるが、雪が光を反射してよく見えない。

「なぎ」

もう一度名前を呼ばれ、足が自然に動いた。
一歩、また一歩と、誰かに近付いて。
そして、やっと解った。
「――っ!」
名前を叫ぼうとしても、声が出ない。
どうして?
そう言おうとしても、喉に引っ掛かってしまう。
それでも、体は動くので、ゆっくりと手を伸ばす。
そして、掴もうとした瞬間、消えてしまった。
同じように、雪も少しずつ消えていく。
残された僕は、唯呆然と、その場にしゃがみ込んで。
涙も流せずに、赤く、黒く、染まっていく世界を見た。
そしてその先には――無数の赤く染まった人影。


「――っ!!」
がばり、と勢いよく飛び起きた凪は、ぐらりとバランスを崩して床に叩きつけられた。
ベッドではなくソファーで寝たせいだ。
強打した腰を摩りつつ、むくりと起き上がり、辺りを見る。
吐く息がすぐに白くなる。
それに少し首を傾げ、
――ああ、そうだ。
凪は思い出した。
今、自分は家にいるのではない事を。
そして、額に滲んでいた汗を拭った。
最悪な夢見。

「――大丈夫、大丈夫」

自己暗示のように繰り返す。
そして、室内の温度が異常に低い事にようやく気がついて、再びソファーの上にある布団にもぐりこんだ。

外では雪が静かに降り積もっていた。





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