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「――まあ、浅葱、さんが男装して高校に言っている理由はわかった」
「そうですか」
「でも、それだけで……」
恵がかぶりを振って言う。
それに凪は、あははと笑うと、
「だって、僕のせいで要に彼女が出来ないなんて、嫌じゃないですか」
「――あんたは良いの?」
「はい?」
「浅葱さんは、その――彼氏とか欲しいとは思わないの?」
その言葉に、凪は、
「ええ、思いません」
当然、と言ったふうに言った凪の言葉に、恵は、
――勿体無い。
内心呟く。
先ほど写真を見て思ったが、凪は顔つきが中性的で、性別がわかりづらい。
しかし、女の格好をしていたらちゃんとした女なのだ。
それに加え、顔つきは整っているため、女の格好をしたら、美少女といっても遜色は無い。
中学のときはさぞもてただろう。
それを口に出して言うと、
「いいえ。どちらかと言えば、今の方がもてている位です」
凪は肩をすくめて言った。
その言葉に、恵は思わず閉口した。
――確かにそうかもしれない。
中学の時の事は詳しく知らないが、今の状態はすごい。
どこぞのアイドルかと言わんばかりの人気である。
恵は気付かれないようにそっと溜息をつくと、カップを口元に運んだ。
そして、ふっと思い出したように口を開く。
「――良くないじゃない」
「はい?」
「だって、浅葱さん、好きな人が居るって言ってたじゃない!」
恵の急な発言に、凪は首を傾げ、表情に疑問符を浮かべた。
そんな凪に、恵は苛立ちを覚えつつも口を開いた。
「だから、男として学校通ってんなら、その好きな人に想いが伝えられないじゃないの!」
「……」
沈黙。
凪は恵の言葉にポカンとしている。
恵は自分が言った言葉の内容に、言った後一瞬遅れて赤くなった。
室内が静かになる。
もともと賑やかだったわけではないが、叫ぶような恵の声が響いた後だとやけに静かに感じる。
「――大丈夫ですよ」
その沈黙を凪が破った。
凪は、笑っていた。
――否。
口元だけが笑っている。
目は笑っていない。
その笑みに、恵は一瞬ひやりと、どこか冷たいものを感じた。いや、冷たい、というか、悲しい、なのかもしれない。
そんな表情のまま、凪は言葉を続けた。
「その人、もう――死んじゃってますから」
一瞬、空気が凍った気がした。
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