22

「………」
「………」
「………」
「………」

沈黙が続く。
凪は特別言うことが無いのか、恵の問いを肯定した後は黙ったまま、先ほど持ってきた紅茶を啜っている。
恵は混乱していて、言葉が出ないようだ。
時々、「うー」とか、「むー」とか、うなるような声を出すだけで、会話は無い。
ちなみに今二人はちゃぶ台を挟んで向かい合わせに座っている。
それぞれの前に、紅茶とケーキが置かれているが、恵は一向に手をつけていない。

「――あの」

重苦しい――と思っているのは恵だけかもしれないが――沈黙を破ったのは、手にフォークを持って、ケーキを食べようとしていた凪だった。

「!っ、はいっ!」

考え事をしていたときに声をかけられたためか、恵は裏返った声で返事をする。
その反応に笑いを押し殺しつつ、凪は口を開いた。

「お茶、冷めてしまいますよ」
「……え、ああ。そう、ね」

凪のあっさりとした物言いに――実際内容もあっさりとしたものだった――身構えていた恵は何故だが毒が抜かれたような気分になった。
凪の言葉に同意しつつも、恵は紅茶には手をつけずに、冷静に考える事にした。

『えっと……。あの写真は浅葱君の中学入学時の写真、で、その前の写真が、高校入学のときの……で、中学のときは浅葱君は浅葱ちゃんで、高校入ったら、浅葱君になって……で、今目の前のが浅葱ちゃんで――あれ?でも何で男の格好?女子なのよね?え?もしかして逆?中学のとき女のかっこして――あ、でもさっき女って言ってた……』

考えれば考えるほど混乱してくる。
もともと混乱した頭で冷静に物事を考えるなど、どうしても考え方がおかしくなる。

「何か訊きたいことがおありで?」

不意に、一口大にきったケーキを口に運びながら凪が言った。

「え?」
「答えられる範囲でなら答えますよ?ケーキも頂きましたし」

貴方の知らないところであなたのことを色々調べてしまいましたし、と内心思うが、それは間違っても口には出さずにニコリと笑みを浮かべる。
恵は一瞬ほうけたような表情になると、

「え、えっと……浅葱……君、は……女、なのよね?」
「生物学上」

だいぶ迷って言葉を選んでいるような恵に反して、凪はしれっと答える。
そして、この事は内緒にして置いてくださいね、と、悪戯っぽく笑った。
ばれた事は特に問題視していないようだ。
その答え方に、幾分か安心したのか、次の言葉にはだいぶ落ち着いたような口調になっていた。

「じゃあ、どうして男子の制服着て、男として通っているの?」
「あ、やっぱそこに行きますよねー」

凪は間延びした声でそう言うと、最後の一口になっていたケーキを口に放り込んで、それを紅茶で流す。
そして、ちゃぶ台に両肘を突いて、顔の前で両手を組み、そうですねぇ、と呟く。
どう話したものか迷っているらしい。
恵は凪が話し始めるのを待ちつつ、ティーカップの鶴に指をかけた。
紅茶はもうすっかり冷えてしまったが、それでもいい香りが鼻をくすぐった。

「――邪魔だ、と言われたんです」
「へ?」

何の前置きもなしに凪が口を開いたため、一瞬何の話か恵には理解できなかった。
数秒かけて、それが先ほどの恵の問いへの答えだと気付くと、

「どうして?」

と、訊く。
凪は、そうですねぇ、と呟くと

「中学の時、要の事を好きな子から、付き合ってないなら、要にべたべたするな、って。そう言われたんです。で、その時に確かに僕が側に居たら、要の事が好きな子が中々近づけないと思って、なら高校からは女じゃなくて、男として通えば問題ないんじゃないかってことで、今にいたります」
「……」

説明を終えた凪が、にこりと笑って恵を見る。
それとは反対に、恵は呆れたような視線を凪に向けた。





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