21

「ここで待っていてください。お茶だしますから」

そう言って恵が通された部屋は、純和室だった。
床はもちろん畳で、部屋の周りは窓がある一ヶ所をのぞいて襖で覆われていた。
真ん中にはちゃぶ台が置いてある。
基本的に普通の客間だ。
ふと、部屋の隅においてある茶箪笥の上に、写真立てが置いてある事に気がついた。
二つあるうちの一つはフレームが木で出来たいたってシンプルなもので、この部屋のあっているといえばあっている。
もう一つはアルミフレームで、凝った細工がしてある。
所々に青色のガラスもちりばめられていて、おかしいほどにこの部屋とあっていない。
恵は木製フレームの方を取ろうとして、一瞬戸惑う。が、好奇心に負けて結局手にとってまじまじと見つめる。
その写真には、五人の人間が写っていた。
一番左端にいるのは、長めの黒髪を一つにまとめ、何処かけだるそうにしている男性。
右端は、短い黒髪に、やや面倒そうに相貌を細めた少年――要だ。
その隣には長い黒髪を垂らして、服の上に白衣を羽織っている女性。
美人なのだが、無邪気な笑顔が可愛らしい印象だった。
そして、その女性と男性の隣にいるのは、金髪で、赤いフレームのめがねをかけた少年――凪だった。
ちなみに凪は学校にいるときはめがねをかけて行っている。
目が悪いわけではないのでもちろん伊達めがねで、顔を隠すためのささやかな抵抗である。
本当に『ささやか』な抵抗だが。
凪は隣の女性に抱きつかれつつ、困ったような表情で笑っていた。

『あ、入学式?じゃあこの女の人はお母さん?……にしては若い……お姉さんかな?でもあんまり似てない……』

恵はそう考えつつ、もう一つの方の写真たてを手にとった。
もう一つの方は先ほどの写真より少し色あせていて、写真に写っている人間は先ほどと同じだろう。
ただある一点で、激しく違うところがあった。
恵はその一点を凝視して、そして、硬直していた。

「え……、う、嘘……。なんで………」

混乱で、言葉がうまく出てこなかった。
――一度落ち着こう。
そう思い、恵が写真立てを元の場所におこうとしたその時、

「お茶、入りましたよ」
「っきゃあ!」

不意にかけられた声に、甲高い悲鳴を漏らす。
それと同時に、写真立てが手から滑り落ちる。

ガシャン

それほど高さは無かったために、あまり大きな音はしなかったが、それでも静かな室内には十分すぎるほど響いた。
凪は落ちた写真立てを見て、目を丸くするのと同時に、「しまった」と言う風な、やや渋い表情を作った。
そして、もっていたお盆――上に空のティーカップとティーポット。
それに、ケーキ――恐らく恵が持ってきたものだろう――が、それぞれ二人分置いてある――をちゃぶ台の上において、恵の隣しゃがみ込みつつ落ちた写真立てを拾った。

「見ましたよね?」

凪がばつの悪そうな声で確認した。
その質問に、恵は戸惑ったように暫く間をおいてから、首を縦に振った。

「まあ、見られたものは仕方ないですね」

溜息をつきつつ、肩をすくめる凪に恵は、あ、とか、う、とか意味の無い単語を暫くの間呟いていたが、ややあって、

「あ、浅葱……君って………『女の子』……だった……の?」

かなり不自然に間があいた台詞に、凪は、

「正真正銘の女ですよ」

写真立てを元の場所に戻しながらそう返事をした。
その写真には、長い金髪を一つにまとめ、やや眠たそうに目をこすっていて、セーラー服を着た凪が映っていた。





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