19

「……、あ」

目を覚ましてまず視界に入ったのは、真っ白い天井。
そして、耳に入ったのは、

「――歌?」

歌声だった。
恵はベッドから起き上がると、ベッドの周りを囲っているカーテンを開けた。

「あ、おきましたか」

凪はそう言うと、いすから立ち上がった。
窓から差し込まれる日はもう西日で、室内を夕焼け色に染めている。

「いきなり倒れたんですよ。寝不足でしょうね」

事態を良く飲み込めていない恵に、クスクスと笑いながら凪が言った。
恵はその言葉に何故自分が保健室で寝ていたかを理解すると、羞恥心から顔が赤くなった。

一度ならず二度までも……。

恵が軽く自己嫌悪に陥りかけたとき、ふとあることを思い出した。

「ねえ、さっきあんた歌ってた?」

恵がそう訊くと、凪はこくりと無言で頷いた。

「あんた歌下手ね」

そう言うと、凪は笑って、知ってますと答えた。
そして、小さな声で歌を口ずさみ始めた。
夢の中の女の子が歌っていた歌と同じ歌だ。
音程は滅茶苦茶で、ここまで下手に歌えるのもある意味才能かもしれないと思ってしまう。
恵は思わずクスリと笑うと、

「ゆうやーけこやけーのあかとーんーぼー」

ゆっくりと歌い始める。
ああ、懐かしいな。
恵は内心そう呟いた。
恵が一番初めに覚えた歌が、この歌なのだ。
大きくなってからめっきり歌う事はなくなった歌だが、今でも好きな歌だ。
よく通る、澄んだ声は、狭い室内に良く響いた。
一通り歌い終わると、パチパチと凪が拍手をする。

「なんか、得した気分ですね」

凪はそう言って笑うと、立ち上がって鞄を持った。

「さ、暗くなってしまう前に帰りましょうか」

そう言って、二人は保健室を後にした。

その後、歌えるようになった恵は無事に部活に戻り、コンクールで優勝した。
その時歌った歌は、コンクールにはあまり使われない童謡だったが、綺麗で素直な歌声がどうこうと、好評だったらしい





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