11

台所では、凪が温めなおしたご飯を食べていた。
そして、銀に気付くと、

「座れば?」

そう言って箸で自分の前の席を示した。
銀は無言で座ると、じっと凪を見る。

「……何?」

凪が食事を中断して銀に訊けば、銀は少し考える素振りをする。
そして、

「今日帰りが遅くなったのは何で?」

と訊いた。

「晃さんのところに行ってたから」
「それは要から聞いた。ボクが訊いたのは、何処に行っていたじゃなくて、何をしていたかってこと」
「ん――……。お手伝い」
「薬屋の?」

その言葉に、銀は怪訝な顔をする。
凪はにこりと笑うと、何処からとも無く袋――青色系統の花柄がちりばめられた生地で作ってある手のひらほどの大きさの巾着だ――を取り出した。

「これをもらう換わりの手伝い」

そう言って、巾着を銀に向かって軽く放る。
銀はそれを受け取ると、紐を緩めて中を見た。
中にはコルク栓のはめてある小さな小瓶が入っていた。
出して手にとってみれば、中にはぎっしりと詰まった、

「――茶葉?」
「うん。それが欲しいって言ったら、丁度材料があるからって、調合してくれた。睡眠導入効果があるんだって」
「――貰う換わりに手伝い、ね」

銀が納得したように呟く。

「そ。ところでさ、銀」

凪が箸を机の上において言う。

「ちょっとお願いがあるんだけど」
「……何?」
「えっとねえ……。あ、あった。これこれ」

凪はそう言って足元においていたかばんから黒いファイルを取り出す。
涼から渡されたものだ。
そして、その中から一枚の紙を取り出す。

「この家を少しだけ探って欲しいんだ」

そう言って、紙を渡す。
そこには恵の家の住所が書かれていた。

「――どんな事を?」
「そうだな……。恵さんを中心に、家族内の会話とか――そんな詳しくなくてもいいから」
「了解」

銀は言うと、一瞬で小さな白い狐の姿になり、ふっと空気にとけるように姿を消した。
凪は軽く息を吐くと、食べ終えた食器を水につけて台所を後にした。





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