10
家に着いた時には8時をとっくに過ぎていた。
「ただいま」
「おかえり」
「……おかえり」
居間に行くと、銀はいつもと変わらない様子で座っていた。
が、要の機嫌がわずかだが明らかに悪い。
凪は首をかしげると、
「何かあった?」
と訊いた。
「…………」
「……要?」
要は暫く凪を見ると、軽くため息を吐いた。
「?」
「何でもない。台所に夕飯が置いてあるから、適当に温めて食べろ」
「うん、ありがと」
へらりと笑って台所に向かった凪をみて、要はもう一度ため息をこぼした。
「帰りが遅いから心配したって言えばよかったのに」
その様子を見ていた銀が、小さめの声でからかうような口調で言った。
要は銀をじろりと睨むと、
「――別に」
銀に合わせたのか、小さな声で言う。
「ふうん。でも時計をやたら気にしてたり、落ち着きがなかったりしたのは?後、凪が帰ってきたとき少しホッとしてたように見えたけど?」
「……」
要は『よく見てるなこいつ』といった風な、驚き半分、呆れ半分といった風な目で銀を見ると、
「そりゃ、7時に帰ってくるって言ってたのに何の連絡もなくて8時まで帰ってこなかったら、多少の心配はするだろ」
「ふーん。多少、ねえ」
ニヤニヤ笑いながら銀が呟いた。
そして、
「まあ、いいけどさ。でも、片思いは大変だな」
片思いを強調して言った。
「……嫌味かよ」
「いや、純粋に大変だなって思っただけ」
銀が肩をすくめながら言う。
そして、すっくと立ち上がると、
「さて、ボクは主のところにでも行くか」
そう言って居間を出ようとした。
それに慌てたように要が声を上げて、銀はゆっくりと、口元に笑みをたたえて振り返った。
「大丈夫。心配しなくともいらないことは言わないから」
「……」
要が若干の疑いの混じる目で銀を見る。
銀はそれを気にした様子も無く、
『まあせいぜい頑張れ』
目でそういうと、居間を出て行った。
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