6
恵は驚いた顔をしていたが、直ぐに目を細めると、つかつかと凪に近づいて、
「出てって」
と、言った。
眉間にしわをよせて、心底不愉快だと言う風に睨みながら言う恵に凪は、
「やです」
ヘラリと笑って返した。
それに恵はより一層険しい顔をすると、
「私、貴方の顔見てるとイライラするのよ」
と、棘のある口調で言い放った。
が、凪はそれをさして気にした様子も無く軽く肩をすくめた。
そして、
「僕、何かしました?」
笑ったまま訊いた。
恵はその表情をみて、短く溜息を吐くと、
「大して悩みも無さそうで、ぼーっとしてて、授業中は大体寝てるし、そのくせ試験での結果はかなりいい。運動も出来る。それでいて、顔もかなりよくてもててる。いっつもへらへら笑っていて――とにかく癇に障るのよ」
そう、一気にまくし立てるように言った。
そして、凪から一メートルほど距離を開けて、鉄格子にもたれかかるように座り込んだ。
その言葉に凪はほんの少し目を丸くすると、にこりと笑って、
「それはすみません」
言うと、弁当箱から一口サイズにきったコロッケを箸で挟んで口に放り込んだ。
沈黙。
ちらりと恵が凪のほうを見る。
凪はそれに気付くと弁当箱を差し出して、
「食べます?」
「いらないわよ!!」
凪の申し出を即効で恵は断ると、呆れたような表情をした。
「あんた、よく自分のこと嫌いだって言う人間の横でご飯食べれるわね」
「それは貴方も同じでしょう」
「?」
凪の言葉に、恵は首をかしげた。
「よく自分が『嫌っている』相手の隣に座って会話が出来ますね」
くすくす笑って凪が言う。
恵は一瞬ぽかんとした表情をすると、直ぐに顔を赤くして、
「――ッ!」
すっくと立ち上がった。
そして、乱暴な足取りで扉に向かって歩く。
「帰るんですか―?」
凪がのんびりした口調で言うと、恵は置いたりと足をとめ、
「当たり前でしょ!!」
そう怒鳴るように言うと乱暴に扉をあけて屋上から出て行った。
――バタンッ!!
「……むぅ」
かなり大きな音を立ててしまった扉を眺めながら、凪は唸るような声を上げた。
←・→