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昼休み。
凪は屋上で昼食を取りながら涼から渡されたファイルを見ていた。
藤岡恵は幼い頃から歌の教育を受けていて、今までも何回か全国的なコンクールで賞を取っているらしい。
当然、この学校の音楽部のトップだ。
一ヵ月後に秋大会を控えており、今の時期は練習で忙しいはずなのだが、現在は声が出ないために部活は休んでいる。
体が弱いわけでもなく、持病があるわけでもない。
健康そのもの。
「……これと言った理由は見付からない、か」
凪は溜息を付きながらファイルを閉じる。
『誰かが歌えないように呪いを掛けたか……』
鉄格子にもたれかかりながら考える。
時々秋を感じさせる涼しい風が吹いて凪の髪を揺らす。
「……眠い」
日差しが少し暑いが、風がひんやりとしていて丁度よく感じる。
凪はぐっと伸びをし目をつぶった。
静寂。
校庭で野球部が昼練習をしていて、その声が聞こえる。
「……浅葱、君?」
不意に、綺麗なソプラノの声が聞こえて、凪が目を開く。
声のした方向――屋上の入り口だ――をみると、そこには藤岡 恵が立っていた。
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