5

昼休み。
凪は屋上で昼食を取りながら涼から渡されたファイルを見ていた。
藤岡恵は幼い頃から歌の教育を受けていて、今までも何回か全国的なコンクールで賞を取っているらしい。
当然、この学校の音楽部のトップだ。
一ヵ月後に秋大会を控えており、今の時期は練習で忙しいはずなのだが、現在は声が出ないために部活は休んでいる。
体が弱いわけでもなく、持病があるわけでもない。
健康そのもの。

「……これと言った理由は見付からない、か」

凪は溜息を付きながらファイルを閉じる。

『誰かが歌えないように呪いを掛けたか……』

鉄格子にもたれかかりながら考える。
時々秋を感じさせる涼しい風が吹いて凪の髪を揺らす。

「……眠い」

日差しが少し暑いが、風がひんやりとしていて丁度よく感じる。
凪はぐっと伸びをし目をつぶった。
静寂。
校庭で野球部が昼練習をしていて、その声が聞こえる。

「……浅葱、君?」

不意に、綺麗なソプラノの声が聞こえて、凪が目を開く。
声のした方向――屋上の入り口だ――をみると、そこには藤岡 恵が立っていた。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -