9
「なあ、凪」
「ん――?」
帰り道。
直美を家に送った後、二人で――銀は凪の肩に乗っているので――歩いていると、不意に要が口を開いた。
「この人形って、蔵にあった奴だよな」
要が手に持った風呂敷包みを示していった。
それに凪はさも当然と言った風に頷く。
「この人形って、呪いが掛かってるんじゃなかったのか?」
「――呪いって言うのは、色々あるんだ。一般的に呪いって言うと、恨みとか怨念っぽく聞こえるけど、実際は感情の塊なんだ。嬉しいとかも感情の一種なんだから、恨みつらみだけじゃない。それで、一生懸命作られた物には、その人の感情がこもっているんだ。
――まあ、そこから人形がひとりでに動き出すなんて怪奇現象が起こるわけなんだけど」
「……」
要は黙って凪の話しを聞いている。
「霊も平たく言えば感情の塊だからね。感情と感情は惹かれあうケースがある。その上、弟さんは芸術家だったわけだから、同じように芸術家の作った物――感情のこもったものに惹かれるかなと思ってね」
成功した。そう言って凪が笑った。
「おかげで今日は楽だったろ?憑依させるのだけだしな」
銀が言って、凪がそうそうと呟く。
「――いつもは誰かと会話させる時実体化させるんだけど、それはかなりの量の霊力を相手に渡さなきゃいけないから」
「へえ」
補足として凪が言って、要が納得したように呟く。
「さてと、帰って寝るかー」
「……昼寝してたのに」
銀が呆れたように言うと、
「まあいいじゃん。寝る子は育つって」
「……もう遅いだろ」
冗談のような口調で言った凪の言葉に、要が小さくポツリと呟く。
非常に小さく呟いたはずなのだが。
「何か言った?要」
ニッコリと笑って凪が訊く。
要はやや視線を泳がせると、
「――なんでもない」
その返答に満足げに凪は笑って、軽い足取りで先を歩く。
銀はそんな様子を見て、呆れたように溜息を零した。
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