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「――そろそろですね」
不意に、凪が空を見上げて呟いた。
月はだいぶ傾いてきている。
凪は澄を地面に置くと、
「すみません、そろそろ限界みたいなんで……何か言い残した事とか有りますか?」
『もう終わりか……しょうがないか、死んだんだから』
「……!」
澄の言った言葉に、直美ははっと口元を抑えた。
「もう……お別れ?」
絞った声で言う直美に、凪は申し訳なさそうに頷いた。
「そんな……せめて、せめて私の――」
『姉さん』
直美の言葉を遮って澄は言葉を紡ぐ。
『僕の机に中に、木箱が入ってると思うんだけど、あれ、姉さんへの結婚祝。結構頑張ったつもりだから、大切にしてね』
「―――澄」
『そんな悲しそうな顔しないでって。大体人間死んだら逝くとこなんて一緒なんだしさ。運がよければまた会えるよ。あ、でも予想以上に早くあったら怒るからね』
冗談の様に言った澄に、直美はクスリと笑って、
「そうね、努力するわ。それと、結婚祝ありがとう」
『どーいたしまして。さ、おにーさん――それともおね―さん?』
「どっちでもいいですよ」
『そう。じゃあ、おにーさん。さくっとやっちゃって』
「わかりました」
凪は少し笑うと、下に置いていた紅蓮を持ち上げた。
そして、刃先を人形に向ける。
「――終印、解」
凪がそう呟いて、人形がうすく光始めた。
そしてその光が散る瞬間、
「姉さん!」
人形からではない、澄の声がした。
「約束護ったからね!今までありがとう!!」
「!!」
人形に入っていた時よりも声は薄くなっていたが、それでもはっきりと聞こえた声。
しかし、次の瞬間には全く聞こえなくなってしまった声。
「……澄」
「もう、逝ってしまいました」
呆然とした声で呟く直美に、凪が言った。
そして、もうなにも入っていない人形を元通りに箱にしまうと、
「さて、僕の仕事はこれで終わりましたね。帰りましょう」
と、言った。直美はゆっくりと凪のほうに顔を向けると、穏やかに微笑んで頷いた。
「ありがとう」
微笑んだまま言った直美に、凪は相変わらず笑って、仕事ですから、と返した。
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