8


「――そろそろですね」

不意に、凪が空を見上げて呟いた。
月はだいぶ傾いてきている。
凪は澄を地面に置くと、

「すみません、そろそろ限界みたいなんで……何か言い残した事とか有りますか?」
『もう終わりか……しょうがないか、死んだんだから』
「……!」

澄の言った言葉に、直美ははっと口元を抑えた。

「もう……お別れ?」

絞った声で言う直美に、凪は申し訳なさそうに頷いた。

「そんな……せめて、せめて私の――」
『姉さん』

直美の言葉を遮って澄は言葉を紡ぐ。

『僕の机に中に、木箱が入ってると思うんだけど、あれ、姉さんへの結婚祝。結構頑張ったつもりだから、大切にしてね』
「―――澄」
『そんな悲しそうな顔しないでって。大体人間死んだら逝くとこなんて一緒なんだしさ。運がよければまた会えるよ。あ、でも予想以上に早くあったら怒るからね』

冗談の様に言った澄に、直美はクスリと笑って、

「そうね、努力するわ。それと、結婚祝ありがとう」
『どーいたしまして。さ、おにーさん――それともおね―さん?』
「どっちでもいいですよ」
『そう。じゃあ、おにーさん。さくっとやっちゃって』
「わかりました」

凪は少し笑うと、下に置いていた紅蓮を持ち上げた。
そして、刃先を人形に向ける。

「――終印、解」

凪がそう呟いて、人形がうすく光始めた。
そしてその光が散る瞬間、

「姉さん!」

人形からではない、澄の声がした。

「約束護ったからね!今までありがとう!!」
「!!」

人形に入っていた時よりも声は薄くなっていたが、それでもはっきりと聞こえた声。
しかし、次の瞬間には全く聞こえなくなってしまった声。

「……澄」
「もう、逝ってしまいました」

呆然とした声で呟く直美に、凪が言った。
そして、もうなにも入っていない人形を元通りに箱にしまうと、

「さて、僕の仕事はこれで終わりましたね。帰りましょう」

と、言った。直美はゆっくりと凪のほうに顔を向けると、穏やかに微笑んで頷いた。

「ありがとう」

微笑んだまま言った直美に、凪は相変わらず笑って、仕事ですから、と返した。





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