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「――弟さんの幽霊、ですか」
「はい」

直美は凪の言葉にしっかりと頷く。 
凪と直美は、客間でちゃぶ台を間に挟んで向かい合わせに座っていた。
台の上には水滴が滴っているガラスのコップが二つ置かれている。
その中には良く冷えた麦茶が入っているが、直美はそれに口をつける事無く本題に入った。

「――私の弟は、将来彫刻家になりたがっていました。
その為に、たくさんの努力をしてきました。そしてある時、弟が自分の作品を大会に出品したのです。ですが、弟の作品は何の受賞もされませんでした」

直美はそこで言葉を区切った。
少しだけ目を伏せている。
そして、一呼吸置くと、ゆっくりと口を開いた。

「そして、それが発端となり、もともと彫刻家になるのを反対していた母と喧嘩になりました。『お前には才能が無いのだから諦めろ』と……」
「……」
「弟はその言葉にかっとなって家を飛び出したんです。
いままでも母と喧嘩をすると良くそうしていて、二時間もたつとふらっと帰ってくるんですが……その日に限って、帰ってこなかったんです」

じわり、と直美の目に涙が浮かぶ。

「――よかったら、使ってください」
「……ありがとうございます」

凪が差し出したハンカチを少し頭を下げて受け取ると、目の涙をぬぐった。
少し落ち着くのを待って、

「それで……弟さんは――」
「自殺、しました。廃ビルから飛び下りて……」

凪が言いよどんでいると、直美は涙声で言った。

「すみません……」
「いえ、私がお願いしているんですから」

話すのは当然です。
そう言って、軽く頬を叩いた。
そして、続ける。

「そして、お葬式が終わって三日くらいたった頃です。夜中に私を呼ぶ声が聞こえたんです。『姉さん』って……。そう呼ぶのは弟しかいません。でも、どこにも弟の姿は見えない……。もし、まだ何か未練が有るのならば、ちゃんと成仏させてあげたいんですっ」

だから、お願いします。
そう言って、直美は勢いよく頭を下げた。
そんな直美を見て、凪は少し考える素振りをすると、

「―――解りました。お受けいたしましょう」

ニッコリ笑って言った。
その言葉に、直美は初めはぽかんとしたが、じょじょに顔を輝かせて、

「ありがとうございます!」

安心したように、憑き物がとれたように笑った。
そして、はたと気付いたように言う。

「えっと……、お金の方は……」

少し訊きにくそうに訊く直美に、凪はああ、と呟くと、

「結果によりそちらで決めていただいて結構ですよ」

そう言った。
正直、これが一番面倒くさい。
凪は内心そう呟きながら、泣きそうな、安心したような表情をしている直美に微笑んだ。






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