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俺たちはしょせん、他人であるしかない
それから俺は、5限目をサボらなくても先輩と言葉を交わせるようになったことに上機嫌だった(あんまりサボるとヤバいからって2人で自粛することにした)。
言葉を交わす、といっても直接的ではないがそれでも俺は満足していた。
(メールって案外たのしいな)
とりあえずもうこれで、ただの他人ってわけではなくなったと思っていた。
今度の土曜に、近くの高校との練習試合がある。それを先輩に伝えたくて、あわよくば応援に来てもらいたくてそうメールを送ったらぴたりと返信が止んでしまった。ちょうど休み時間が入ったからかもしれないが、俺はそれがどうしても不安でならなかった。
なにか気に障ることをいっただろうか。知らないうちにき、嫌われた とか?そんなことばかりがぐるぐると頭の中を支配していて、あの上機嫌はどこに行ったんだ、と秋丸にため息を吐かれたくらいだ。
(俺だって、そんだけのことでどうかしてるってわかってんだけど、)
(だって認めちまいそうなんだ、自分自身)
(この、もやもやしたモンを)
部活帰りの、空がほんのり暗い時間帯だ。俺の携帯が、メールではない新着を知らせた。液晶画面がぺかぺかと光りながら先輩の名前を表示し、俺に知らせている。
俺は慌てて携帯を開き通話ボタンを押した。
「…榛名?」
「 っす」
「ごめんね、急に」
「あ、いえ」
「あとメールも、」
「だいじょうぶです」
「試合のことなんだけどね」
「はい、…」
先輩の声色からして、次に来る言葉は容易に想像できた。俺は携帯をぎゅっと握り締めながら声を潜め、それでも先輩の言葉を待った。
「試合ね、行きたくないの」
「…そ、すか」
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」
「や、いいっす。俺こそ、すんません」
それから一言二言交わして通話を切断した。試合に来てもらえないのは確かに堪えたが、なにより先輩の 行きたくない の言葉が引っ掛かった。
(行けない、ではなかった)
俺はまだ、仮説が立てられるほど先輩のことを知っているわけじゃないんだと思い知らされたようだった。
俺たちはしょせん、他人であるしかない
(土曜の試合にもちろん先輩の姿はなかった)