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はやくあいたい
そういえば俺はあの先輩の名前を知らない。学年は知っててもクラスは知らない。向こうもきっと俺を知らない。
代名詞でなければ、お互いがお互いを呼び合えない。遠くで見つけても、もどかしそうに見つめることしかできないんだ。
「はああ…雨うぜえ」
その日は空をバケツをひっくり返したような雨が覆っていた。じめじめして気持ち悪い。
まあ、梅雨に入ったせいもあるんだろうけど。ってかこれがとうぶん続くのかと思うと気が重いぜ。部活できねえじゃねえか(筋トレだけどかおもしろくねー)。
「ああ、5限目サボれないからね」
次の授業の準備をしながら秋丸が笑った。俺は、そんなんじゃねえといい返す元気もなく机に突っ伏す。まあ、図星なんだよよーするに。
だってさあ、呼びにだって行けないんだ。知らないってのもあるけど、口実がまずないんだから。
先輩はこんな日、どこでどうやってすごすんだろうか。
(案外、ふつーに授業受けてそうだな)
(でも頭ン中はゲームのことしかないんだ、きっと)
もう1度窓に目を向けて、とうぶん止みそうにない雨を仰ぐ。ため息しか出やしねえ。
次に会ったときに名前とクラスと、 …あと彼氏いんのか聞いてやる。
はやくあいたい
(榛名、プリント回ってきてるぞ)
(いい。俺やんねえ)
(ったく、いてもいなくても一緒じゃないか)