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俺たちは再び出会う

「卒業生、退場!」

 
盛大な拍手に見送られて、宮原先輩を始め野球部の先輩たちは目尻を赤くさせながら体育館を颯爽と出て行った。それを追いかけるように在校生と保護者が出ていき、校庭で花道を作る準備をしている。

急いで屋上に向かおうとしたとき、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、…卒業おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」


宮原先輩だった。俺よりも少しデカいくらいの宮原先輩は、目の前まで歩いてくると俺の両肩に両手を置いて、野球部と、それからあいつを頼むなといった。俺は、意味を完全に理解する前に もちろんです、と答えてしまった。けれど不思議と後悔は微塵もなかった。


ギギギ、と屋上の古びたドアを押し開ける。一瞬風が力強く俺の前髪を攫ったが気にしている場合ではない。後ろ手でドアをそっと閉め、空を仰ぐ。

視線を向けた校庭では、在校生と保護者や教師の作った花道の間を通っていく卒業生が見えた。

「榛名、」

声は後ろから聞こえた。振り返るまでもなかったが、俺は心持ち緊張しながらゆっくりと声の主を見た。軽く俯きながら、両手をぎゅっと握り締めた名前先輩が躊躇いがちに俺の方に歩み寄ってきた。

先輩はずいぶんと弱々しくなった。支えてないとちゃんと立ってらんないんじゃねえかと疑わしいくらいだった。けど先輩はちゃんと立っていて、俺の気持ちに応えてくれた。

「榛名、 ひさしぶり だね」
「っす。…、」
「…ごめんね、なんか 勝手なことばっかり」
「や、大丈夫、…けど、あの、髪、下ろしてもらっても いいですか」
「え、あ…」
「封印、なんすよね?でも、どうしても、…ダメっすか?」

先輩はす、と俺の顔を見上げてなにか伺うような目をした。けれどすぐに顔を俯けて後部に手をかけた。するすると髪の束が下りてきて、先輩の首筋を埋めてゆく。思った通り先輩の髪は結構な長さがあった。手櫛で乱れた髪を梳きながら、先輩は小さく笑った。

「封印…ね。そんなこともいったね」
「なんで封印なのか、聞いてもいっすか?」
「バカみたいなことだよ。宮原先輩が、好きだっていってくれたの この髪を。それだけ」
「ああ…綺麗っすもんね」
「切れもしないのよ、ほんと情けない…これで、いい?」
「名前先輩ですよね、あの日の」
「……やっぱり、榛名だったんだね」
「いつから気付いてました?」
「最初はわかんなかったよ。けど、だんだん…なんか雰囲気で。でもすごく曖昧な記憶だったし…榛名は?」
「俺もつい最近、です」
「そっか…でもまさか、再会するとは思ってなかったなあ」
「俺は、…先輩追っ掛けてここ来たんすよ」


そういうと先輩は一瞬驚いて、でもそれからすぐに柔らかくはにかんだ。それから小さく空気を吸い込んで、真正面から俺を見据えた。


「わたしね、宮原先輩とちゃんと話し合ってきたの。付き合ってたんだけど、いろいろあって、自然消滅みたいになってて。でも、榛名に出会ってまだうじうじしてる自分がいて、これじゃダメだって思って、…ちゃんと、」

瞳は真っ直ぐに俺を見ていたけど、目尻にはゆっくりと涙が溢れてきてついに頬を伝った。瞬間、どうしても先輩を抱きしめたくなったけどなんとか堪えた。今、先輩は俺に向き直って気持ちをぜんぶ伝えてくれようとしているんだ。覆うことはできない。ぐっと耐えて俺も先輩をずっと見つめていた。

「榛名の、ことがっ…好きで、 …だから、」

とうとう立っていられなくなって名前先輩はコンクリートの上に座り込んだ。あのときと同じように両手で顔を覆って肩を揺らしている。
俺は居た堪れなくなって先輩を抱きしめてしまった。もうこれ以上は、先輩を1人にしておきたくない。これまでになかったくらい強く強く抱きしめると、先輩も俺の背中にその白く細い腕を回して縋った。

「好き、…すごく好きなの」

屋上のフェンスを背景に、泣いている先輩の唇にキスを落とすという行為はなんだか背徳感があって、俺は以前先輩とアドレスを交換したときのことを思い出した。けれど今は少し違う。これは、俺たちが本当に繋がるためのものだ。

俺たちは再び出会う 
(酷く神聖なもののように感じたし、)
(それと同じくらいなにか子供のちっぽけな約束のようにも思えた)

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