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卒業式が終わったら、屋上で待ってる

先輩から借りていた例のゲームには、最後の最後でどんでん返しがあった。相思相愛だと思われたヒロインが、主人公の前から姿を消すのだ。主人公は必死になって世界中を回りヒロインを捜し求めたが、その姿を見かけたものはない。
(世界のために尽くした主人公に、この仕打ちはないだろうと思う)

暦上、日本は春に入ったがそれでも気温は嫌になるくらい低いものだった。布団から出るのも億劫になる。ああこのまま時間なんか止まってしまえばいいのに、と自分でも驚くくらい卑屈なことを考えていた。

先輩は、あの日俺にマフラーを巻いた女なんだ。確かな確証はないし、本人に確認したわけでもないけれど、恐らくこの仮説は正しいだろう。じわじわと嫌な確信がせり上がってくる。
けど、それと同じくらい間違いであったらいいなんていう気持ちに頭がイカれそうだった。

名前先輩は、宮原先輩のために編んだマフラーをなんらかの理由で渡せずあの日偶然公園のベンチに座っていた俺に巻きつけて去った。あの涙が、名前先輩のいってた”失恋”によるものなら納得がいくし、試合に”行きたくない”といったのも頷ける。

先輩は、宮原先輩に会いたくなかったんだ。けれど屋上で先輩は泣いた。まだ、宮原先輩のことが 好き、だから。

(マフラーに編まれたK。宮原先輩の下の名前は、浩太 だ)
(あのときの女と、名前先輩のマフラーが同じ色だったと今さら気付くなんて)
 
なら、俺はどうすればいいんだろうか。2人の仲を取り持つべきだろうか。けれどお互いの気持ちがわからないし、俺なんかが間に挟まっていいんだろうか。俺は、…どうしたいんだろうか。

何度目になるのかわからない一方的なメールを先輩に送った。ただ、会いたいと打っただけだったし、返信が来るとは思ってなかった。
例え、返信が返ってきたところでそれからどうすればいいのかなんてなにも考えてない。けれどとにかく、もうそろそろ先輩の顔を、あのニッて子供みたいに笑う笑顔を見ないと、ダメになっちまうような気がした。

朝、携帯のアラーム音で目が覚めた。いつも通り冷たい空気の、卒業式の朝だ。
今日の気温もずいぶんと低い。憂鬱な気分に染まりかけたとき、携帯が久しぶりに着信を知らせた。先輩、だ。

卒業式が終わったら、屋上で待ってる。
シンプルなメールだったが、それがどうしても俺を安心させた。

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