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首に巻いているマフラーが隠れるくらいの長い髪

あの日から先輩からの連絡がぷっつりと途絶え(もちろん、電話もメールもしたんだけど)、クリスマスも年明けも、俺は彼女がいるというのにそれらのイベントをすべて1人(または家族)と過ごした。

鳴らない携帯には、確かに先輩のメモリがあるというのに。そのまま握り潰してしまいそうなくらい力を込めて携帯を睨みつける。

(また、先輩との距離が開いてしまった)
(修復は、もはやムリかもしれない)
 

凍えそうな部屋の中で、ベッドに仰向けになって天井を意味もなく見据えていた。ああ退屈だ。野球と、先輩がいないだけでこんなにもヒマになるのか俺。

ランニングでもするか、と身体を起こしたとき、隅の方にハンガーで掛かっていたマフラーが目に入った。そうだ、ちょうど1年前に知らねえ女にマフラー巻かれたんだったなあ。そういえばその女追っ掛けて武蔵野志望したんだった。今思うと、なんかすげえよなあ俺。

「…はあ、」

ジャージに着替えてマフラーを引っ掴み、俺は家を出た。頭ん中モヤモヤしてるときは運動して汗かくに限る。
余計なことは考えたくない。

家からずっと直進して、学校の方まで走っていく。歩道は、積まれた雪でどうにも走りづらかった。外気に晒される頬や耳は凍りついたように冷えていたが、多少汗ばんできた身体が妙に気持ち悪かった。

吐息が白くて邪魔だなあと思ったとき、目の前の信号が赤になって立ち止まる。学校が見えてきた。知らないうちにずいぶん走ってきたようだった。

ワゴン車やらトラックやらが通りすぎていく。その間で、宮原先輩の姿が見えた。きっと学校に置いている荷物やらを取りに来たんだろう。信号が青になったら駆けよって、挨拶しようと考えたとき、俺は宮原先輩が1人じゃないことを一瞬で理解した。
隣りに誰かいる。
それも、宮原先輩より20センチ以上背の低い、女だ。彼女かなにかだろうか。宮原先輩は、その女を愛しそうに寂しそうに見ていた。
女の方も、宮原先輩を複雑そうな顔で、…

「 って、…名前先輩か、よ」

半ば引きつった声が無意識に出て、嫌な記憶が巡ってくる。あの夏の日、宮原先輩と軽くギクシャクしているように見えた先輩。”失恋したばっかりだから臆病になっている”そして、 ”好きだった なのに”という言葉。考えたくないのに、脳が勝手に整理していく。

ああ、宮原先輩となんかあったんだ。
そんで今も、忘れることができないんだ。
その日の先輩は、いつも結い上げている髪を下ろしていた。


首に巻いているマフラーが隠れるくらいの長い髪
(全てが結びついた)
(やっとわかった、ぜんぶ)

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