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冷たい屋上の、風

恋人という仲になっても、俺と先輩の関係にさほど変わりはなかった。昼休みは一緒に弁当食って、先輩のゲームを攻略して、軽く交わすくらいのメールにニヤついたりしてそれをエネルギーに部活やって、遅くまで勉強で残ってる先輩を送ってったりして(つっても、駅までで先輩の家には行ったことはねえんだけど)。

それでも、俺は先輩といられるだけで充分だと思ってる。


やがて忙しかった夏が終わって、北から冷たい風が吹き始めた頃。先輩はカーディガンに指先まで隠して、パンをかじっていた。
俺はその隣りで、先輩のゲームを攻略している(そろそろラストスパートがかかってきている)。

「もう、中で食った方がよくないですか?」
「ん、そうだねえ。さすがに屋上はさむいわ」

肩を小刻みに揺らして、俺の右肩に寄り添ってくる。べったりとは来ないが、だいたい先輩は引っ付いてくるので俺もそれが当たり前なんだと思って別段気にしていなかった(まあ、秋丸とかがいたら恥かしいんだけど、)。

先輩の、スカートから出た膝小僧が見てるだけでも寒そうで今度からはどこで食うかなと考える。

「3年生、引退しちゃったんだねえ」

自販機で買ったばかりの温かいレモンティーを両手で包みながら先輩が囁いた。そうだ、俺たちの夏は終わったから3年生は進路のために引退していった。なんと答えていいのかわからず、 そうっすねと薄情な言葉しか吐けなかった。

「…っ、 ふ、」

不意に漏れた嗚咽に、ガードが失敗し相手から巨大な火の玉を食らってしまった(これ、3発受けたら即、ゲームオーバーだ)。
って、そんなこといってる場合じゃなくて、!
首だけを動かして先輩を覗き込むと、考えたくなかったが案の定先輩は大きな瞳からポロポロと涙を零していた。
初めて見るその姿にギョッとして、危うくゲーム機を落としそうになるがそれをどうにか堪え、先輩に向き直る。

見られたくないのか、先輩は両手で顔を覆って肩を強張らせていた。本当に初めて見る、弱々しい先輩の姿だった。俺はどうしていいのかわからず、そっと先輩の肩に触れる。
ようやく先輩のことを知ってきたと思ってたけど、こんなときに得た知識を使えないんじゃどうしようもない。

「先輩、…名前先輩」

俺が呼びかけても、先輩は応えることなく涙を拭い続けていた。先輩のカーディガンの裾の色が少しずつ濃くなっていく。とうとう居た堪れなくなって、俺は先輩の後部に手を添えてゆっくりと抱き寄せた。

「好きだったの、…なのに、 なのに」
「名前せんぱい、」

俺はなにも知らないし、なにもわからない。けれどその言葉はきっと俺以外の誰かに向けられたものなんだということは、無意識に感じとってしまった。

冷たい屋上の、風

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