連休最後の日の朝だ。今日は早く目が覚めた。どれくらい早いかっていうと、ラディよりもだ。
今日くらいはわたしがご飯作ってあげよう、と洗面台に音を立てないように向かう。途中、ソファで眠っているラディの脇を通ったけれど微かな寝息が聞こえるくらいでまだ起きそうもない。
「うああっ」
お味噌汁に集中していたとき、後ろで喚き声が聞こえてわたしは飛び上がってしまうくらい驚いた。な、何事だと慌てて振り返るとソファの上でラディが驚いたような顔でこっちを見ていた。
まさか台所に立っているわたしを見てびっくりしたわけではあるまい、とお味噌汁の火を止めて駆け寄ってみる。
「ラディ?」
「あ、…いや」
「大丈夫?」
ラディは額に汗をびっしり掻いていた。わたしがソファの側に膝をつくとやっぱりラディの視線は彼自身の腹部にあった。
「お腹、痛いの?」
「いや…」
「…昨日も、うなされてたよね」
「俺、死んだんだ」
腹を貫かれて、と小さな声でラディは言った。それを聞くのは2度目だった。
出会ってすぐのときなら悪い夢でも見たんでしょうと言えたかもしれないけど、なんとなくもうそんなこと言えそうになかった。ラディの言動が、わたしにはもう夢や冗談やお芝居には到底見えないのだ。
「そうだ…それで殺されて、意識がなくなった途端に、」
「この部屋に、いたの?」
「…ああ」
それって、あの世(ラディは地獄だって言ってたっけ)に行く瞬間にここに飛ばされたってことになるのかな。でもラディの腹部にはそんな貫かれたような痕なんてない。どんな風に貫かれたのかはわからないけれど、飛ばされたのは貫かれる前の一瞬の間だったとか?それともあの世に行くときはみんな生前の状態だったりするのだろうか?
「悪い、驚かせちまって」
両手で顔を覆い隠すと、ラディは乱れた呼吸を整えるように肩を大きく上下させた。自分が殺されたときのことを思い出すのって、どんな気分なんだろう。
「ラディ…」
「ん…?」
わたしが呼ぶと指の隙間からこっちを見て、安心させるようにラディは口角だけを上げた。やっぱりラディは優しい。今一番つらいのはラディなのに。悲しさと悔しさとで涙が滲む。わたしが泣いたって仕方ないのはわかってるけど、どうしようもないんだもん。
「うう、」
「…ばかやろう」
俯いてしまうとラディは乱暴にわたしの頭を自分の方に引き寄せた。ぐいっと、でもとても配慮された力加減だった。
「名前が泣いてどうすんだよ」
「だって、」
涙が次から次へと溢れて来る。ラディが死んでしまったときのことなんか、考えたくもない。
「ごめんな」
夢中でラディのもこもこした髪ごと腕を回してきつく抱きしめた。ラディはすごく、温かかった。わたしはそれを知ってしまった。
疾風に勁草を知る