紅いアネモネ | ナノ
何者かが塔に侵入してくる気配がして、背筋がぞくりと粟立った。恐らく神子御一行だ。合図と共にプロネーマがワープへと進んだので、わたしもそれに続いた。相手が大人数の上、こちら側はまだ神子の行動を疑っている。一行に丸めこまれた神子が反旗を翻さぬとも限らないのだ。
ワープを抜けると数人の天使に囲まれた神子2人が足元に見えた。

「ご苦労じゃったな、神子ゼロスよ。さあ、コレットをこちらに」
「…はいよ」
「ゼロス?!」

プロネーマの言葉に振り返った神子と目が合う。一瞬、ほんの僅かだけ見開かれた瞳はやはりぎらぎらと獲物を狙う肉食獣のように鋭くなり、それだけで彼がわたしの全てを理解してしまったのだとわかる。
ああ、そういえば彼の個人名はゼロスだったな、なんて場違いなことを思った。

「あ、あんた…!」

神子の行動に騒然とする中、ミズホの民らしき黒髪の少女がわたしに声を上げた。

「あんた、ゼロスのとこのメイドじゃないのかい…!」

彼女とは神子絡みで何度か面識があったことを思い出す。ということは刺客は彼女で、やはり任務に失敗したのも彼女か。情の厚い甘い子だとは思っていたけれど、やはり。
しかしそれももうこれまで。これでマーテルは神子コレットの肉体により復活する。誰も止めることはできない。

「神子がそんなにも嫌か?仲間を売るほどに」
「ああ嫌だね。この肩書きのせいで碌な人生じゃなかったんだ」

ぽつり、と足元に吐き捨てるような声で彼は囁いた。
それはもちろん、幼い頃から彼を監視してきたわたしも、少しはわかるつもりだ。母親の愛情も満足に受けられず、汚いばかりの他人との付き合いや彼の上辺ばかりを見る視線も、全て彼をこんな風にしてしまったのだろう。
もちろん、わたしも含めて、だ。

やがて神子コレットを連れ、プロネーマは天使と共にワープへと消えた。しかしわたしはその場に留まり続ける。タイミングを逃したこともあるが、やはり神子の監視を仰せつかったのだから、結末を見届けたくもあったから。

「さて、と…やるからには本気でいこうや」

愛剣の切っ先を引き抜いて、仮初の仲間に向ける。
今彼がどんな気持ちであるかなんて、わたしにはわからない。
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