紅いアネモネ | ナノ
神子がクルシスと繋がっていることはもちろんだけど、その傍らでレネゲードとも接触を持っていたことには薄々気付いていた。
弱肉強食のこの世界で、より強いものの味方につこうとするのは道理であるし、だからといってそれをどうにかしようと思ったことはない。ユグドラシルさまにとって、テセアラの神子とは得てしてその程度のものだった。
その神子が今行動を共にしている人間たちの素性を知ったときは、さすがに驚いたけれど。

「それで、今ユグドラシルさまは?」
「…ロイドたちと接触している」
「……どうして」
「さあな。とにかくお前はいつでも動ける状態にしておけ」
「あなたはどうするの?その、ロイド、は、」
「私のことは関係ない。それよりお前は決めたのか」
「…なんのこと?」
「ひどく泣きそうな顔をしている。…情が移ったか」
「あなたのそういうところ、嫌いだわ」
「フ、…変わらないな」
「…関係、ない」
「しかしいつまでもそうしてはいられんぞ」

きっぱりとそう言い切ると鳶色の髪を靡かせて彼は踵を返した。彼の服装がいつの間にか古代対戦時のものになっていた。以前、再生の神子の監視につく前にメルトキオに寄ったときは紫を羽織っていたくせに。完全にこちら側なのだと示したいのだろうか。

…こちら側、とは、そう、ユグドラシルさまの元のこと、だ。

そう言い聞かせてメルトキオを出た。人間の年月で言えば長く、少なくともお世話になった場所に一瞥だけくれて背に意識を集める。久方振りではあったけ
れど、それは容易に天を仰いだ。天使である、証。

救いの塔まで飛ぶと、以前現状報告のために一度だけ現われた女性が出迎えた。名をプロネーマというらしい。彼女の話しによれば、もうじきここに神子さま御一行が現われて、再生の神子はこちらに引き渡される手筈らしい。情けないことに、僅かしか残されていない時間に胸がざわついた。

あの人に、そんな役目を押しつけたくなかったと、言えない言葉は胸の中で消えた。

親に疎まれ、誰にも自身を見てもらえず、肩書きばかりに囚われて生きる哀れな神子への、僅かばかりの同情でしかない。嘘なのか本気なのかもわからない歯の浮くような言葉ばかり羅列したり、どうすれば自分を見てくれるかと強引に迫ったり、まるで子供のようにムカつくだの嫌いだの騒ぎ立てて、そしてふいにわたしの名前を呼んでみたりする。

ああユグドラシルさま、わたしに監視の任は荷が勝ちすぎたようです。

名ばかりの塔の隅で、まるで祈るように目を瞑った。
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