紅いアネモネ | ナノ
先日と変わって快晴のメルトキオはどこかきらきらとしていて、それでいて白々しかった。太陽が少し遠い。神子さまは今朝からお城へ出ていて、姿を見ていない。それでよかったのだ、と言い聞かせてジョウロに並々と注がれていく水を見ていた。

レンガ造りの道を優雅に歩いていく貴族の娘たちが遠巻きにわたしへ視線をやる。神子さまのお気に入りのメイド、ね。鮮やかに塗りたくられたルージュがそうかたどる。棒立ちするわけにもいかず、当たり障りのない笑顔を浮かべて、恭しく頭を下げた。

「…めんどうくさいな、人間は」

愛情なんて傾けないでも、水さえ与えれば育つ花を見下ろす。ああ、どういうことなんだろう。この花を踏みつけるも手折るもわたし次第なのに。たくさんあるものの中のからひとつ特別を選ぶなんてどうかしている。しかもその花は、わたしの通過点のひとつにしか過ぎないというのに。本当に、馬鹿馬鹿しい。

頭の中がぐちゃぐちゃになって、視界がぐるぐるして、だけどなにがそうさせているのかがはっきりとわかる。

「あの人が挨拶しておきたい人か?」

影が落ちてきて、ジョウロを掴んでいた手がびくりと揺れる。反動で水が零れたけれど、わたしは気にせず立ち上がった。

「そ。俺さまの麗しのメイドちゃん」

神子さまが鳶色の髪の少年を引き連れてわたしのところに歩み寄って来ていた。後ろにも数人、見慣れない人がいる。

「神子さま?どうされたんです?」
「あ〜っと、なんかややこしいことになってんだけど、とにかくちょっと留守にすっから」
「留守に?かしこまりました。屋敷の者にはわたしからお伝えします」
「ん、頼んだ。じゃ行こうぜ」
「神子さまを宜しくお願いします」

ぺこり、と頭を下げると鳶色の髪の少年は照れたように笑ってから行ってしまった。

神子が留守に。どこに向かうというのだろう。立場的について行きたかったけれど一メイドが同行を申し出るのも少し変な話だ。これはわたしが動くべきではないな。なにかあれば指示が下るだろうし。

それにしても、同年代のお友達は、あの人には初めてだったんだろうな。心なしか少し嬉しそうだった彼の瞳を思い出して、わたしは望んではいけない未来をほんの少し、描いてしまった。

さあ、水やりの時間は終わりだ。
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